𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟶𝟼 ページ7
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───ああ、そうか。惚れていたからだ
俺が、奴に惚れていたと。
それは果たしていつからか。最近か、それよりも前か。
いや違う。俺は四半世紀はもとよりこの女……Aに惚れていた。ガキの頃、どうした訳かこの女に心底惹かれていたが、そのような愛だの恋だのいう陳腐な感情はあの日を境にとっくに捨てたはずだった。それが今になって蘇るなど、誰が想像しただろうか。
もうこの世界に身を投じて以降、人を好くなんざ無いと思っていたが。まさか、自分も馬鹿だと揶揄したAと同じだとは。
「だが………そんな馬鹿な女に惚れ込む俺も、また馬鹿なんだろうぜ」
まだ自分に人間らしい感情が残っていたことに驚きだが。そう自覚すれば、随分前からAは特別な存在だったと気づく。
別に女など奪おうと思えば奪える。征服しようと、蹂躙しようと何だって。自身が欲しいと望めばどんな手段を使ってでも手元に置く性分。
だが、Aには手を出せなかった。
その理由は簡単だ。この女が清純だからだ。清純すぎるからだ。
献身的であり、無駄に自己犠牲のある愚かな女。ガキの頃から変わりない穢れのないその様は、血生臭い場所に生き、じめじめした屍ばかりの世界に身を潜める自分とは正反対。まさに奴は白が似合う。そこに黒を混ぜることはできない。
ただ、ここで手負いの羽を休めているうち、ある考えが浮かんだ。今まで1度たりとも思いもしなかったことを。
今日まで居場所を求め組織の忠実な犬としてきたが、ガキの頃から本当に探し求めていた居場所を見つけた気がする。
そして、この時思った。
長らく彷徨っていた漆黒の洞窟から抜け出すのも、存外いいかもしれないと。
.𝚂𝚒𝚍𝚎 𝙴𝚗𝚍
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作者名：匿名希望
| 作成日時：2023年12月9日 22時
