𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟶𝟻 ページ6
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そんな奴は反動からか、そのままの勢いで矢継ぎ早に言葉を発し続けた。長らく惚れていたこと、組織から足を洗わせようとしたこと……奴はひとしきり想いだかなんだかを口にすると、再度懇願してきた。
「だから、その………もう関わるななんて言わないで。本当に、お願いだから………」
そんな戯言、さっさと断るつもりだった。その面を拝むまでは。
目の端に雫を溜めたその女の表情に、何かがふつふつと込み上げてきた。
それは、鼠の死に際に湧き起こる加虐心などでなければ、嗜虐心でもなく。らしくはないが、もっと温かいような何かが。長らく自分の奥にしまいこんでいたとある感情。組織に忠誠を誓ったと同時に捨てたはずの感情。
それが、今掘り起こされるような。
なんだ………？
何十年ぶりかの感覚につい戸惑う。それと同時に、ふとある疑問が浮かび上がってきた。
なぜ俺は警察の身であったこの女を生かしていたのか。組織についてバラすとほざいたあの日、コイツに拳銃を向けた時になぜこの面に撃ち込めなかったのか。もう数え切れないくらい人間を消しているというのに。
腐れ縁だからか？いや違う………
振り返ってみれば、俺はなぜかいつもコイツのことを気にかけていた。それもガキの頃から。奴が凶弾に倒れた時の罪悪感、見舞いの花束、死の偽装、それから先程の通話の一件………
そして、何よりもこの女に妬いた。奴が他の人間の匂いを纏って帰ってきた時。まるで自分の所有物に手を出された時と似た気分になった。
なぜ、奴にこのような感情を抱いたのか。らしくもないこんな感情を。
───ここで、俺はようやく理解した。
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作者名：匿名希望
| 作成日時：2023年12月9日 22時
