𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟺𝟹 ページ44
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『──いいか、新一。私が言いたいのは、その主催者が半世紀前に謎の死を遂げたとされる大富豪だったんじゃないかという可能性だ。彼は莫大な財産を所有し、その規模は世界レベルだったときく』
「………ははっ、冗談だろ?半世紀前に死んだ大富豪なんて」
そんな大胆な考え、父さんらしくもない。まさか、そんな。
死んだとされる人間が生きてるなんておとぎ話じゃあるまいし。それにもし仮に生き延びていたとしても、齢140は超えている。いくら日本が長寿大国と言われていても、人間の細胞はそこまで生きることはできない。それこそオレが服用された例の薬──APTX4869なら、話は変わるかもしれないが。
父さんはオレの気持ちを見え透いているかのように、しかし言葉を続けた。
『……さらには、あのショッピングモールで殺害された財閥の会長も招かれていたそうだったじゃないか。まぁ、それは公にされていないようだが』
「ああ、会長があのパーティーに招待されてたってのは執事の人が言ってたよ。でも、それが何か関係があるとは……」
『なら、その被害者の周辺に何か気づいたことはなかったか?物でもいい、何か落ちていたりとか』
何か気付いたことや物……何かあったかなと1ヶ月前に遡る。
そこでオレはふと思い出した。あの"文字"の存在を。
「あー……ちょっと待ってくれ、確かここに……」
ガサゴソとポケットに手を入れ、小さな手帳を取り出す。目的のページは、開きグセがついていたので探す手間が省けた。そしてそのページにこそ書いてあったのが、あのダイイングメッセージである《ゔ》の文字。ああそうだ、これだ。
「……あぁ、あったぜ。役に立つかはわかんねーけど、被害者のダイイングメッセージがな。平仮名の"う"に濁点がついた文字だよ……恐らく死ぬ間際に残したんだ。でも、ほかには何もなかったぜ?」
オレが言い終わるなり、"やはりそうか"と父さんは深いため息をついた。
"何だよ、急にため息なんかついて"とオレが言うと、父さんにしては珍しく切羽詰まった声で言った。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年12月9日 22時