𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟹𝟼 ページ37
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とりあえず彼なりの褒め言葉なのだとポジティブに受け取ると、まだ何か言い足りないのか"だが……"と彼は顔を顰めた。
「………だが、赤は気に食わねぇ。変えろ」
"色が気に入らない"。あまりにも理不尽な理由に、彼に見せるためでもないけど納得がいかなくなる。せっかく今しがた愛着が湧いてきたばかりだというのに。さらには変えるよう強制までしてきた。
「えっ、昨日買ってきたばっかりなのに……」
「フン……それなら俺が新しい代物をくれてやる」
「それは嫌よ……!だって、絶対暗い色になりそうだもの」
いつも黒装束に身を包んでいる彼なら、絶対にそうに決まってる。しかも黒なんてもってのほか。上品な黒いドレスもあるけど、蘭ちゃんや園子ちゃんが明るい色だからそれは控えたい。
というか、突然押し掛けてきて何の用なんだ。レディーの部屋に勝手に侵入するとは何事だと言いたくなったが、憎まれ口を叩かれそうなので止めた。
「それよりも何の用で来たの?今日はおひとりじゃないみたいだし」
彼の背後で空気と化しているウォッカさんに目を向ける。彼はおそらく何らかの理由でここにいるのだろうけど、見当もつかない。そもそもあまり関わりがないこともあって。
「……なに、お前に少し相談があるだけだ」
そう壁に寄りかかり煙草を咥える陣の様子は、いつもより少しだけ愉しげで。この時の彼が何を思っていたかなんて、私にはわからなかった。
❉
後日、驚くべきことに本当に彼から衣装が届いた。
"新品を送ってやる"という言葉を冗談半分で受け取っていたらこの有り様。宅配業者から受け取ったドレスケースは明らかに高級そうな仕様で重たくて。
「おも……ドレス1着でこんなに……」
よたよたとリビングまで運び、よっこらせと床にケースを下ろす。そして、やや緊張した手つきで重そうな蓋を慎重に開けると、そこにはシルクが広がっていた。
わぁ、綺麗………!!
中から出てきたのは白……いや、アイボリーのシルクドレス。しかもクラッチバッグつき。暗い色はやめて欲しいとの要望に配慮してくれたのだろう。でも、まさか正反対の白系統だとは思わなかった。
いくらかかったんだろう、少なくとも私では到底手に届かない代物だとわかる。
……でも、最後を飾るにはちょうどいいかも
この衣装は最後に着るにはふさわしいのかもしれない。
ついこの間の彼からの相談内容を思い出し、ふふっと寂しく笑ってしまった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年12月9日 22時