𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟽 ページ8
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「んで、すぐに来いって言われたから来たけど……」
"何かあったのか？"と目の前の灰原に問いかける。
彼女はオレにソファに座るよう促すと、目の前のテーブルにストラップのついた携帯電話を置いた。見た事のない機種だ、誰のだろうか。
「？なんだ、ただの携帯じゃねーか。でもこれってお前のでも博士のでもないよな？」
「………えぇ、Aさんのよ。ちょっと頼まれ事で預かっていたの」
"Aさんの"。その言葉を聞いた時、さっきの出来事も相まって普通の事じゃないと思ってしまった。もう彼女はオレの中でただのポアロの店員ではない。正体不明の女性へ逆戻りしてしまった。
それから向かい合うように灰原が座り、ﾋﾟｯとその携帯のボタンを押してメールボックスの画面を見せた。
「………なんだ、これがどうかしたのか？」
「その差出人の名前を見てみなさい」
目に映るズラリと並んだメールの数々。中には佐藤刑事や由美さんなど、彼女が警察官であったことを思わせるような人物の名前もあった。
そして、一際目を引いたのは最新の3月31日から4月初めにかけて送られているメッセージ。軽く10件は超えるメールの差出人は全て同一人物で、"黒澤陣"という人間が送っているらしい。
待てよ、この名前ってどこかで………
この名前を見た途端、ふと何かが引っ掛かり数多の出来事で埋められた記憶を掘り起こす。
ふいにザザーッと頭に流れる波の音。そしてあの老婆の顔。人魚伝説の伝えられた島での連続殺人……
あの悲しい事件と同時に、ある事が思い浮かんだ。
「………あら、心当たりでもあるのかしら」
「いや、心当たりほどでもねーけど……
かなり前に、服部たちと美国島ってところに行ったんだ。そん時の捜査で見た名簿かなんかにこの名前が……」
そう、事件絡みで服部と来島者リストを見ていたとき。確かにこの人物の名前があった。それに、そういえばそこには"宮野志保"の名前も記入されていたような。灰原は、不老不死には興味がなさそうだから別人だと思っていたが。
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作者名：匿名希望
| 作成日時：2023年7月29日 16時
