𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟻 ページ6
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「……!博士、ちょっと貸してちょうだい」
「え……?こ、これこれ、哀くん!勝手に見るのはよくないじゃろう」
見覚えのあるメールアドレスに、ドクンと心臓が鳴った。
心の中で謝りながらも携帯を覗くと、なぜか警視庁の人から何件か来ていた。
そして、それ以上にとある人物からが多かった。その人物とのやり取りを過去まで辿れば、今から約10年ほど前。彼女は確か31歳だと言っていたから、恐らく20過ぎの時。
アドレスからなんとなく察しはついていた。けれど、あの男ではないとどこか期待している自分がいた。
……映し出された送り主の名前を見て、そんな淡い期待は崩れたのだけど。
うそ……嘘、でしょ…………
画面に映し出されたのは、憎きあの男の名前とアドレス。
"開けたくないパンドラの箱だったら別にいいのよ"
以前、自身が彼女に言った言葉を思い出して自嘲する。開けないほうがよかったかはわからないけれど、本当にパンドラの箱だった。
私が憎むあの男と彼女が繋がっていたなんて。到底信じられない。
そのまま私が呆然自失になっていると、カウンターの上の携帯から着信音がした。画面に表示された名前は、私が先程まで電話をかけていた人物で。
『……もしもし!灰原か?今まで気づかなくて悪かったな、ちょっと立て込んでてよ』
「そう……」
『そんなことより、今ヤベェことが起きたんだ!
Aさんがっ………Aさんが、ジンに連れ去られたんだ!!』
「………」
『?なんだ、驚かねぇのか!?』
「……いいえ、驚いてるわよ。彼女にはね」
"どうやら、私。本当にパンドラの箱を開けてしまったようよ"
そう告げれば、パンドラ?と電話口の声は狼狽えていた。
「とりあえず、帰ってきたら私の所にすぐ来ること」
わかった?と強めの口調で言えば、お、おう……と少し戸惑ったような返事が聞こえて通話が切れた。
それから、私は再び彼女の携帯に目を移した。
目の前の液晶画面に移るやり取りの数々。組織関係の内容は無く、他愛のないものばかり。彼女が組織の人間ではないことは確か。ならば、あの男と彼女の関係はなんなのか。随分と親しい間柄に見える。
それを裏付けるかのように溜まっていた着信は全て同日に送られており、内容は一言で言えば彼女の安否を確認しているものだった。事故か何かに巻き込まれたのだろうか。
記憶喪失の彼女……いったい、何者だというの?
.𝚂𝚒𝚍𝚎 𝙴𝚗𝚍
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年7月29日 16時