清純の真実･前編《名探偵コナン》 (ページ32)

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𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟹𝟷 ページ32

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「………煩ぇぞ、A」

この暗闇の中で彼の深碧だけが爛々としていた。
私の頭上からサラリと髪が垂れ落ちて、その低いバリトンが耳にこだまする。

……なんで陣がここに！？

モゴモゴと口を動かしていれば、ふいに彼の手から解放されてぷはっと息を吐いた。
とりあえずこのまま暗闇なのも何なので、手探りで照明のスイッチを押す。

「きゅ、急にどうしたの？というより、どうやってここに入ったの？」

明かりの下でいつもと同じ格好で現れた彼は、私の許可なく傍にあったベッドにドカッと腰掛けた。そしてコートのポケットに左手を突っ込むと、チャリンと銀に輝く小さな物をこちらに放り投げる。

か、鍵……？

よくよくその形を見ると私の持ってる部屋の鍵と瓜二つ。試しにその縁を重ねてみれば、凹凸部分がピタリと合わさった。

「………もしかしてなんだけど、これって合鍵？」

「ああ……暇潰しに作っただけだ」

疑いをかける私に、何も問題なさそうにサラッと言い切る彼。
いやいやそれは犯罪では？いや、でももう既に手遅れか。とりあえず不法侵入紛いなことをしているんだから、そんなに冷静でいないでほしい。というか、合鍵ってそんな簡単に作れる物なのか。
彼は、追加の疑問を抱いている私の手からヒョイとその合鍵を取り上げた。

「用があって来たものの、お前は留守にしていたようでな」

"こんな夜更けにどこ彷徨いてた"と問いただされる。
あぁ、そっか。辞めてきたっていわなきゃ。私、もう警察官じゃないんだから。

「えーと、なんて言えばいいか……その……警察を…………」

「あ？なんだ、はっきりしろ」

……やっぱり、警察を辞めましたなんて簡単に言えるようなもんじゃない。私がゴニョゴニョと口ごもって言い出せないでいると、彼が責め立てるように催促した。

「………今ね、警視庁に退職願を出しに行ってきたの」

勇気を出してそう言ってしまえば、表情の変化に乏しい彼が珍しく驚いたように瞳孔を小さくさせた。かと思えば、すぐに嘲笑するような悪どい笑みを顔に貼り付けて。

「ハッ……お前もこれで羊の仲間入りか。ほんの2、3年でへばると思っていたが、10年続いたとなりゃ大したもんだ」

彼から発せられた、馬鹿にしてるんだか褒めてるんだかわからない言葉。まぁ、労るような言葉をかけてくれるとは期待してなかったけど。いつも通りのその様子に、彼が褒めてくれたんだと勝手に解釈することにした。