𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟹 ページ4
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それから、このアパートで5分、10分ほど居座ってから陣は立ち上がった。彼曰く、下で愛車と一緒にウォッカさんを待たせているのだと。それに、次の任務があるとかないとか。
別れの挨拶をすることもなく、彼はダンボールの山で狭くなった廊下を縫うように進んだ。ただでさえ体が大きい彼のことだから、少しフラついただけで箱が崩れそうだ。
「あ、そこ……足元に気をつけてね。ダンボールいっぱいあるから」
「……おい、気になっていたがこれは何だ?まるで越してきたばかりみたいに」
「警察が調べに来ると思ってたから置きっぱなしにしてたの。というのも、巷では私が死んだことになってるみたいでね」
"もう嫌になっちゃうよ"と眉を下げる。とりあえず警部と再会できたので私の死は撤回されるはず。いや、撤回してもらわないと困るのだけれど。
そんな私の話を聞いた彼は、特に驚くこともなくむしろ落ち着いているようだった。
「あぁ、そのことか」
「そ、そのことかって……!勝手に死んだことにされちゃってるのよ」
まあ、彼にとってはどうでもいいことなんだろうけども。何か期待していた訳ではないが、冷たい態度に少し肩を落としてしまった。
そんな彼は玄関まで辿り着くと、靴を履きながら淡々と言葉を投げかけた。
「………逆にこうは考えねぇのか?自分がお陀仏になったと思わせることで、敵の目を欺けるってな」
「えぇ?て、敵………?もしかして私、誰かに目をつけられてるの?」
気になってそう尋ねると、"さぁ……どうだかな"と口角を吊り上げる。彼がこの表情を浮かべたときはだいたい的を射ている。
まさか死の捏造に意味があるかもしれないなんて。そんなこと考えもしなかった。でも、彼の言うことが正しいと仮定したら、いったい誰が何のために私に目をつけているんだろう。何か恨まれるようなことをしてしまったんだろうか。
そんな不安を抱えてふと前を見ると、もうそこには陣の姿はなかった。考えている私を他所に、さっさと身を翻してしまったのだ。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年7月29日 16時