𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟸 ページ3
.
その一筋の煙がフワフワと浮かんで、空中で溶けるのを何気なく目で追っていると、陣が再び口を開いた。
「……それより機種変えやがったな。お前が凶弾に倒れて以降、からっきし音沙汰がねぇ」
「え……?あ、うん。確かに新しくしたけど、まだ連絡はつくはずよ」
どうやら、連絡絡みのことについてらしい。
私は記憶喪失だった間に携帯電話を新調したばかり。流石に今までの携帯は古すぎる。俗にいうガラケーというものだったけど、現代人で持っている人はそういない。昔ながらで良いけど、やや取り扱いにくいところがあった。それに比べて、スマートフォンは画面も大きいし機能もたくさんついていて便利だ。
「あ……そういえば、新しい携帯の方は陣の連絡先を入れてなかったの!ねぇ、よかったらでいいんだけど教えてよ」
「連絡先だと?……前となんら変わっちゃいねぇよ」
"古いモン見て確認するんだな"と言われ、ベッド脇に置いてあった鞄を手繰り寄せた。
それから、奥の方にあったスマートフォンの電源を入れて連絡先を開く。目に映るのは、毛利さんやコナンくん、哀ちゃんなどの記憶喪失後に知り合った人の名前ばかり。昔からの知人や警察関係者の連絡先は、古い携帯から移行していなかったのを思い出した。
でも、肝心のそんな古い方の携帯は鞄に入っていなくて。内ポケットやポーチの中を見てみたけれど、やっぱりどこにもない。いつも肌身離さず持っているというのに。
え〜と、どこに置いたんだっけ?
…………あ!そっか。哀ちゃんに渡してたんだ
ふと探す手を止める。博物館に行く前の買い物のとき、パスワードを開けて欲しいと彼女に手渡したはず。だから今は阿笠邸にあるのだ。
私はそこまで記憶を辿ると、あれ?と首を傾げた。
パスワードを開けて貰うってことは、私と陣のやり取りを見られてしまうのでは?
私が犯罪組織と関わっていたことが発覚してしまうかも、と冷や汗が浮かぶ。でも、よくよく考えれば哀ちゃんは私が警察官というのを知らない。それに、唯一知っているコナンくんが話したとて、彼は陣の存在を知らないだろう。
何か聞かれたら理由を付けてやり過ごせるはず。この時の私はことを重く考えず、むしろ軽く考えていた。まさか、後日に頭を抱えるとは知らずに。
438人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年7月29日 16時