𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟻 ページ6
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しばらく一緒にいてわかったことがある。
まず、私と彼は2歳差だってこと。初対面のときになんとなく年上だろうなとは思ってた。あとは頭がいいってこと。私の名前が読めていたのでお察しだが、彼は同じ歳の子のなかでも特に賢かった。
あとはやっぱり……優しいこと。言葉使いもやや乱暴で、人相もよくないからわかりにくい時もあるけど、実は優しかったりする。つまり、平たく言えば彼は不器用なのである。
そんな彼と一緒に過ごして早2年。
私たちが今いる場所は、私が最近見つけたお気に入りの場所。
「おいで、クロくん」
私がそう呼ぶと、トテトテととある民家の庭先から真っ黒い犬が歩いてきた。少し大きめの綺麗な毛並みの犬。その首輪には金の装飾が施されていて、きっとこの子の飼い主はお金持ちなんだろう。
そんな施設の端にあるこの場所は、フェンス越しに民家が隣合っている。ついこの間、私がこの家の庭で日向ぼっこをしていたこの子を見つけたのだ。
「俺じゃなくて、こいつがクロって呼ばれてんだな」
隣からは少しムスッとした声が。私が室内にいた彼をちょっと来て欲しいと連れ出したからでもあるだろう。彼はあまり外に出たがらない。それでも、嫌々そうにしながらも一緒に来てくれるのは彼なりの優しさだと思う。
そんなことをのんびり考えていると、後ろから"おーい!"と声が聞こえた。
「君たち、何してるのー?」
そう呼びかけながら、遠くから先生が歩いてくる。
「先生!今ね、ここでわんちゃんと遊んでるんだよ」
そう私が言うと、先生は何かを閃いたように"ちょっと待っててね"と室内に戻っていった。
「………外の世界に出たら私もこの子みたいな犬、飼ってみたいな」
ポツリと出た私の言葉に、じゃあ後10年ちょっとかと彼が反応した。
「この施設を出れるのは、18になってからだからな」
そう。ここを出るのは18歳になったら。私たちが社会に出るに相応しい年齢になってからだ。
「私たちがここを出たら、また会えるかな」
まだ先の見えない未来を想像してそう呟く。しかし、何気ないその一言は思いのほか彼の沈黙を招いてしまった。
しばらくして口を開いた彼は、少し遠くを見ていた。
「……さぁ、どうだか。また暇つぶし程度だったら会ってやるかもな」
"未来のことなんて誰にもわからないだろ"と言う彼は、今思えば何かを察していたのかもしれない。
その時の私には、そうだねとしか言えなかったけど。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時