𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟺𝟿 ページ50
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「全員じゃねーけど、多少は覚えてるぜ。
……ジン、ウォッカ、ベルモットにラム。いや、まだいたな。
ピスコ、それにテキーラ……男も女もいたはずだけど、誰が誰かなんてわかんねーよ」
男の口からポンポンと出てくる単語を手帳に素早くメモしていくうちに、私はペンを走らせている途中でふとあることに気づいた。
ジン、ウォッカ、テキーラって、これって全部……
「お酒の名前……?」
「そそ!コードネームっつーのか?メンバーの奴らはそう呼ばれていたよ」
コードネーム……つまり、これは本名ではなく組織で使われているニックネームのようなものか。
私が他に何か聞けることはと考えていると、ガタガタと物音がして、交番に誰か入ってきた。
「いやー、遅れてごめん!処理に思ったより時間がかかってな」
それは、事故の後処理が終わった先輩だった。先輩は私に近づくと、それにしてもお手柄だったなと褒めた。
「連続殺人犯を取り押さえるなんて大したもんだな!後の事情聴取は俺がやるから、お前は休んでいいよ」
そういえば、私は昨日からずっと仕事漬け。忙しくて仮眠をとる暇もなかった。
今日の事件のこともあり、ここは先輩に任せて男には後で組織のについて聞くことにしよう。
❉
暫く私が仮眠をとって再び先輩の元に戻ると、椅子には男の姿がなかった。
「あれ、先輩。さっき話を聞いてた人は…」
「ああ。それなら、トイレを貸してくれって言ったから……」
バンッ
その時、まるで先輩の声を遮るように1発の銃声が。
「なんの音だ!?今、銃声のような音が……」
「……トイレの方からですよ!」
銃声が聞こえた方向的に、私の脳内に嫌な想像が勝手に働く。不安に駆られてトイレの前まで走っていけば、扉が少し開いていた。
キィキィと軋むような音をたてながら揺れる扉。
そして、その隙間から見えたもの……
………!?
それは、頭から血を流しているあの男の姿。
男の眉間近くには小さな弾痕。そして近くの窓には、銃弾が貫通したような丸い穴。
遠くから撃たれた…?
あの男は組織に殺されると言っていたから、狙撃したのは恐らくそのメンバー。私達の話を聞いていたということだろうか。それとも、密かに尾行していたのか。
なぜ男が捕らえられている事実がバレたのかは、わからなかった。ただ、唯一わかったことは組織の情報を知るチャンスが消えた、ということだった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時