𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟺𝟺 ページ45
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それから何ヶ月か経ち、交番勤務にも慣れてきた頃。
ドタドタと足音が聞こえ、慌ただしく男の人が交番に入ってきた。
先程、財布を落としてしまったといって来た人だ。見つかったという連絡をしたから、急いで来たのだろう。
「すみません!俺の財布が見つかったみたいで……」
「ええ、ついさっき会社員の方が届けて下さいましたよ。親切な人でよかったですね」
今度は落とさないように注意してくださいね、と黒い財布を手渡すと、男の人は何度も頭を下げた。
今日はこの男の人の件だけで珍しく平和な日だ。この米花町は何かと事件が多く、治安は良くないほうだと思う。先週はこの近くで事件や事故が何件もあり、たくさんの野次馬や警察が来ていた。
今日は平和でいい日だなぁ、そう思っていたのに……
プルルル……
ふと1本の電話がかかってきた。私が受話器に触れようとすると、俺が取るよと先輩が電話を取る。
「はい、こちら米花駅前交番………
………なに!?殺人ですか! 」
先輩が顔を顰めて声を張り上げる。殺人、また事件が起きてしまったのか。
「犯人は逃走…場所は……ええ、はい…米花町6丁目ですか」
"わかりました、すぐ行きます"と先輩は短い返事をすると、受話器を置いた。
「……米花町6丁目の飲食店で殺人事件があった。有名歌手とそのファンがナイフで刺されたらしい。犯人は杯戸町方面に逃走中とのことだ」
先輩からの情報を頭に入れながら、私はバタバタと出動の支度をする。
犯人が逃走しているなら、他の人に手をかける可能性もなくはない。ならば急いで行かないと。私がパトカーのキーを手にしたとき、奥の方から巡査部長の声がした。
「待て、2人で行くな!今しがた上から司令があった。近くで玉突き事故が発生したとのことだ」
なんていうことだ、事件と事故が被ってしまった。
巡査部長はこれから警視庁から連絡がくるらしく、先輩か私のどちらかが事故現場に行かないと。
「仕方ない、俺は事故の方を処理してからすぐに向かう。だからA……今はお前に任せられるか?」
「……はい!わかりました」
勢いよく返事をしたものの、1人で犯人を追跡するのは初めて。少し緊張しつつも身なりを確認して交番の外に出た。
そして、パトカーに乗り込んだ時、後ろから先輩に声をかけられた。
「くれぐれも気を抜くなよ……犯人は、今世間を騒がせてる連続殺人犯の可能性もあるからな!」
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時