清純の追憶･前編《名探偵コナン》 (ページ44)

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𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟺𝟹 ページ44

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陣に行き先を伝えて車に乗り込むと、車内にはふわりと煙草の匂いが漂っていた。私が座っている革張りのシートもそうなのだが、一般車と高級車ではこんなにも違うのかと思い知らされる。

……ダッシュボード近くに、拳銃のようなものが見えた気がするが見なかったことにしよう。

「この車見せてくれたから、私の車も持ってきてあげようか」

「…………お前は俺を殺す気か」

警察の私が保持している車は言うまでもなくパトカー。初日ということもありまだ運転したことはない。
勿論、彼は私が捕まえる気がないのを理解しているけども。

「ふふふ……冗談冗談。……あ、そこ左に曲がって」

そんな珍しく他愛もない話をしながら、私と彼はとある目的地へ向かった。

❉

「フン……貧相なアパートだな」

陣はバタンと車のドアを閉めると目の前のアパートを見上げた。

まあ、彼が言うのも無理はない。ところどころにある長年の雨風によってできた色落ち。そして備え付けの錆ついた階段。まさに絵に書いたボロアパートだ。でも、今の私の給料ではこのぐらいのアパートにしか住むことができない。いつか綺麗な高層マンションにでも住みたいものだ。

改めて彼に送ってくれてありがとうとお礼をして部屋に入ろうとすると、待てと呼び止められた。
私が向き直ると、彼は後部座席のドアを開けて白い紙袋を取り出し、私に無言で手渡した。

なんだろう、これ……

物騒なものが入ってたらどうしようだなんて考えが一瞬頭をよぎったけど、中からいい香りがしたのでそれはないなと思って開けてみた。
すると、中に入っていたのは大きな真っ白の胡蝶蘭。

「陣が……花？」

花なんて普段の彼からは全く想像もつかない。こんな黒ずくめで長身の彼が花屋にいるところも。
しかし、この胡蝶蘭といえばお祝い事に送られる花。つまり彼は、私が正式な警察官になったお祝いにプレゼントしてくれたんだ。この彼が。

「………いらねぇんならいい」

「ううん、すごく嬉しい。ありがとう！」

お祝いなんてされなかったからこんなプレゼントはとても嬉しい。"飾っておくね"という私の言葉を聞くと、彼は何を言うことも無く車に戻った。けれどもその口角は上がっていた。
もう行ってしまうのかと声をかけたが、これから組織の用があるらしい。

「本当にありがとう、じゃあまたね……！」

走り出す車に大きく手を振ると、彼が手を挙げたのが見えた。