𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟺𝟸 ページ43
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「連絡がつかねぇと思ってたらこのザマか」
陣は逃げていった男の人の後ろ姿を鼻で笑った後、呆れたようにそう言った。
連絡……ああそうか。卒業式が終わったらすぐに交番に配属されることになったから、色々な説明を聞いたりしていて携帯を見るどころじゃなかったんだ。
私が鞄から携帯を取り出してパカッと開くと、メールボックスには6件の通知マークが。内容は《式は終わったのか》や、《今どこにいる》《おい、連絡よこせ》などの1文だ。終いに、最後のメールには《逝っちまったのか》という文面が。
一応、かなり遠回しにだけどこれは……
「え〜と……もしかして……心配、してくれた?」
メールからなんとなく読み取ってそう言ってみれば、先ほどまでとはいかないけど鋭い眼光が。やっぱりちょっと怖い。昔の彼はいったいどこにいってしまったんだ。
私の問いが図星だったのかはわからないけれど、彼は何かを言う代わりに"着いてこい"と先に歩き出した。
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どこに行くのかもわからず私が彼の後を歩いていくと、たどり着いたのは駅前のロータリー。
そして、彼は1台の黒塗りの車の前で歩みを止めた。
「えぇ……これって陣の……?」
レトロな雰囲気を纏った異国情緒の溢れる車。なんだか映画に出てくるような。正直いって、これは絶対にお高いのだろう。
「……まぁな、幹部に近づいた祝いみてぇなもんだ」
"なんだ、興味あるのか"と彼が私に尋ねる。
「う〜ん……車、そこまで興味ないのよね。でも、陣が頑張って幹部にまでなったからこれが貰えたんでしょう?」
彼が組織に入って恐らく10年。きっと簡単になれるものではないんだろう。こんな私が言うのもなんだけれど。
私が"すごいじゃない!"と言えば彼は気難しそうな顔をした。
「幹部とまではいっちゃいねぇが……。まぁ、地位的にはそれに近いだろうな」
そして彼は車のドアを開けて運転席に座った。それから助手席を軽く叩いて扉越しの私に目線を向ける。
「……家まで送ってやる」
"だから早く乗れ"と。
「え、でも………ううん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
断ろうとするとあの有無を言わさぬ威圧感を向けられる。
突然の申し出に驚いたけど、時間も時間なので送ってもらうことにした。この様子では断ることはできないだろう。
それに、私の中でこんな高級車に乗ってみたいという好奇心が働いたのだ。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時