清純の追憶･前編《名探偵コナン》 (ページ42)

今日:138 hit、昨日:126 hit、合計:70,116 hit

𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟺𝟷 ページ42

.

「A、もうあがっちゃっていいよ」

私が先輩にお茶でも出そうかなと急須を手にとると、"初日ご苦労さま"と言われた。

卒業式の翌日からすでに警察官としての仕事は始まり、私の配属先は米花町の交番。通常は24時間体制だけれども、今日は初日ということもあり早めに家に帰れることに。しかし早めとはいっても、今の時刻は深夜0時。ちょうど日をまたいだばかりだ。

先輩の言葉に甘えて挨拶をすると、私は交番を後にした。優しい先輩でよかったなぁとつくづく思う。寮の友達の配属先はかなり厳しいと聞いたから。

夜は物騒だから早くバス停まで行こうと早足で歩いていると、駅前の路地で男の人に声をかけられた。

「なぁ、そこのねーちゃん！オレとちょっと遊びに行かない？」

"アンタ可愛いからさぁ"と酔った口調で近づいてくる。
その男の人は随分と派手な外見だ。やけにキラキラしたネックレスと柄物の服装。所詮、ナンパというやつだ。

「すみません。私、帰宅している途中なんです」

「はぁー、つれないねぇ。オレさ、楽しいとこいっぱい知ってるよ？ちょっとだけでいいからさぁ」

断る私に男の人は引き下がることなく、むしろグイグイと詰め寄ってくる。そして、ある意味警告である私の言葉を無視して勝手に肩に手をまわしてきた。
もうこれはしょうがない。仕方ないので、私は奥の手で警察手帳を見せようと鞄に手をかけた。

その時。

「…………オイ」

聞き慣れた低音が私の後ろから聞こえた。このドスの効いた威圧感のある声はまさか。
パッと私が振り向けば、そこには相変わらず黒ずくめ姿の彼が。

「あ……え、陣！」

「あ？なんだアンタ。このねーちゃんの知り合いか？」

ほろ酔い状態の男の人はそのまま彼にも絡みはじめた。なんて命知らずなんだと思ったが、まさか彼はこんな駅前で揉め事はおこさないだろう。
その予想通り、彼は表情を変えずしばらく男の人を見据えて口を開いた。

「……とっとと失せろ」

そして、ギロリと効果音が出そうなほどの眼力で、彼が男の人を睨んだ。
これが、まさに人を殺しそうな目というものなのかもしれない。彼の一声だけで一瞬で周囲が凍てついたような空間になった。周りにいた人々も本能からかこそこそと私たちから離れていく。

勿論、その中に含まれていた男の人は"ヒィッ"と怯えた声を出すと、一瞬で酔いが覚めたように逃げていった。