𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟹𝟽 ページ38
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数ヶ月後……
「あ〜、もう疲れた……!」
私はそう叫ぶと、バタンと机に突っ伏した。
警察学校には定期テストと呼ばれる物がある。中間試験、そして卒業試験。これらに赤点などは一切許されない。そして、私は今まさにそのテスト期間真っ只中。
テスト内容は、私が苦手な刑法などの法学ばかり。暗記暗記暗記……とにかく暗記の毎日。もうノイローゼになってしまいそう。
私がハァァ……と深いため息をつくと、近くに置いた携帯からピロンと着信音がした。私に連絡をくれる人物はただ1人。急いでパカッと携帯を開いてメールボックスを確認すると、"屈するな"の1文が表示された。
「陣……」
送り主の名前を見ると、心が少し暖かくなった。つい数時間前に、試験が近いことを彼に報告したばかり。疲れている私にとっては、そのたった1文でも充分元気が貰える。
「なに?男?」
どうやら口に出ていたらしく、寮の友だちに後ろから覗きこまれた。
「あ!い、いや、これは違うの!」
「……ふ〜ん、まぁいいけど」
ブンブンと音が出そうなほど首を振れば、やや疑いの籠った目を向けられた。
「てっきり、この間あんたに言い寄っていた男かと思ったわ」
ちゃんと見てたんだからね、と彼女がにんまりする。
ああ、一昨日のことね……
その発言に、私はつい一昨日に隣のクラスの人から呼び出されたことを思い出した。あの時は話しかけられただけだったけれども、実は先週にも同じようなことが。というのも、私が射撃訓練で成果を出した後、急に私は男の人から話しかけられることが増えたのだ。中には、ご丁寧に手紙まで添えて想いを伝えてくれた人も。
でも、私は未だに初恋から立ち直れてない。
色々と理由はあるものの、陣とはいる立場も反対なのにこうして連絡を取り合っている。彼にとっては都合のいい警察官かもしれないが、私は彼を忘れようにも忘れられないのだ。あんなに眉目秀麗なうえ、何でもできる彼に恋人の1人や2人いたっておかしくはないだろう。いや、もしかしたら既にいるのかも。
そこまで考えると、急に心臓がキュッと締まった感じがして。
「……ううん、私は今は恋愛とかはいいかなって。とりあえず、卒業することが1番の目標だし!」
私が机の上の参考書を持ち上げれば、それもそうねと彼女が頷く。
「卒業まであと2ヶ月切ったものね」
先ほどの明るさとは打って変わって、彼女がしんみりとした口調でそう言った。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時