𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟹𝟻 ページ36
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……え、冗談で言ったのに
まさか彼から射撃を教わるだなんて、驚き以外のなんでもない。私は拍子抜けしてつい口に手を当てた。
「なんて面してやがる。おい、携帯を貸せ」
そう彼に言われておずおずと携帯を鞄から取り出すと、それはひょいっと彼の手に。その拍子に、携帯に着けていたあのクマのストラップがぶらんと揺れる。彼はそれを見て一瞬目を細めたが、さっさといくつかのボタンを押すと私の手に戻した。
そして私が画面を見ると、そこにあったのは見覚えのない連絡先。今のやり取りから察するに、これは彼のだろう。
「………腐れ縁の仲だ。暇な時にでも付き合ってやる」
まさかの衝撃的な事を言う彼に、私はつい違和感を尋ねた。
「なんで……なんでそこまでするの」
私は警察。彼とは世界が正反対なのに。
すると、答えは初めから決まっていたかのように彼は鼻で笑った。
「そんな細腕じゃ、逆に殺られちまいそうだからな」
まさか心配をしてくれているのかと思ったが、あの冷たい眼光を向けられたのでそれはないだろう。彼の意図がよめなかったものの、結局私は言いくるめられてしまった。
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その日を境に、私は彼から射撃を教わるようになった。教わるといっても彼が指示をすることはなく、ただ私の射撃を"良い"か"悪い"か言うだけ。しかも一定時間が過ぎると彼は組織の任務で去っていく。
どうしてここまでしてくれるのか、その真意はわからぬままだ。
それでも、私は着実に拳銃の扱いが上達していた。
実際に学校での射撃訓練では動作で高い評価をいただいた。今まで教官から怒られっぱなしだった私にとってはまるで夢のようで。
「Aは法学はイマイチだが、射撃分野は得意のようだな!」
「ま、まぁ……そうですね!」
3度目の訓練の今日、教官に肩を叩かれ私は苦笑いを浮かべた。
まさか言えるわけがない。仮にも警察官の私が、一般的に見て犯罪者に値する陣に射撃を教えて貰っているなんてことは。これを教官に知られたら話し合いどころではないだろう。多分、いや絶対にクビだ。
「来週からの実演も期待しているぞ!」
そんな私の心配も露知らず、教官は"貴様らもAを見習って励むように!"と、他の人たちにも言って去っていった。
あぁ、そっか来週から実演ね……
なんだか変なプレッシャーもかけられてしまい、荷が重くなったような気がする。
一応、期待に応えられるよう全力は尽くそう、と私は意気込んだ。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時