清純の追憶･前編《名探偵コナン》 (ページ28)

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𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟸𝟽 ページ28

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「さぁ、大人しくそれを返しなさい」

"ほら"と施設長さんが手を差し出す。

さっき私を褒めていた笑顔はどこへいったのやら。あれは表面上の笑みだったのか。
1歩、また1歩と近づく彼に反比例して、私はズルズルと後ろに下がった。

今、ここで返したらどうなる……？

私は状況を処理しきれてない頭をフル稼働させる。
もしこの紙を渡して、この事をなかったことにしたら………
……きっと彼と同じような子どもが増えるだろう。裏組織に利用される子どもが。ここで私が紙を渡せばすぐに事は解決するんだろうけど、私の中の小さな正義がそれを阻止した。

「む、無理です！こんな……こんな事して許されるとでも思ってるんですか？……絶対に訴えますよ！」

施設長さんに対する恐怖もあったけど、怒りの感情の方が大きかった。今まで騙されていたというショックと、施設を繁栄させるための汚い手口。純粋無垢な子どもたちを利用していた事実が、私はどうしても許せなかった。

彼は私の拒否の言葉を聞くと、眉間に深い皺を寄せて更に私に近づいた。
やめて、こっちに来ないで。近づかないで。微かに震える足で、私はさらに後ずさった。

その時、トンと背中に何かが当たった。

──壁だ。

ああ、駄目。もう逃げられない。私は壁に背中をつけて、紙を握り締める。

「返しなさい」

まるで最終通告だとでも言うように強く、そして怒気を含んだ声色が耳に入る。でも私はそれを渡すわけにはいかなかった。彼はいつまでも渡さない私に痺れを切らしたのか、私の首元を片手でグッと掴んだ。急に首を締められて、私は声にならない声を上げる。
そして、もう片方の手で思い切り手首を掴まれて、パッと例の紙を手放してしまった。

私から瞬時に紙を取り上げると、彼は手の届かないところにそれを放り投げる。しかし私の首元を掴む手は、一向に離れる気配がない。
それどころか、やけに力が入っている気が……

「生かしておくつもりでしたが、まさか訴えられてしまうとは」

"自分で自分の寿命を縮めて馬鹿な子だ"と私に言い捨てる。
その恨みの籠ったような忌々しげな表情に、圧迫された喉の奥がヒュっと鳴った。