𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟸𝟻 ページ26
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それから早6年……
12歳だった私は、今年で18歳になった。
1人で過ごした6年間は、とても楽しいとは言えなかったけど、それなりに色々努力をしてきた。施設から学校に通い、アルバイトをして生活費や学費を少しでも自分で補った。
そして、私は今日を以ってこの施設を去ることになる。
夢見ていた外の世界に、やっと羽ばたくことができるのだ。
知り合いがいないので今後が不安だったが、先生のサポートもあり、なんと私は近くの飲食店で働けることに。勿論、みんながみんなこういうわけではない。私のように行き先が決まるのはほんの1部。本当に先生には感謝しかない。
「Aさん、今までよく頑張ったね」
そんな私は今、施設長室で手続きを受けている。施設長さんにそう言われると、なんだかこそばゆい気持ちになった。
せっかくの門出だというのに、外はすっかり暗く雨が降っていて木々が揺れる音がする。
私が窓の外を眺めていると、施設長さんが"少し待っててくれ"と言って廊下に出ていった。
もうここともお別れか……
少し寂しいような、嬉しいような複雑な気持ち。
ぐるりと室内を見渡せば、昔の懐かしい子どもたちの集合写真がいくつかあった。少女時代を過ごしたこの施設には、たくさんの思い出が詰まっている。どれも1つ1つが私にとって大切なもので、きっとここを離れても忘れないだろう。
あ!この写真、私写ってる……!
棚の端に置かれた写真には、まだ小さい私の姿が。
その写真をよく見ようと前のめりになったその時。私の手が机に引っ掛かり、上に重ねてあった紙の束から、ひらりと1枚の紙が舞い落ちた。
《〇〇年度、児童引き渡しの件について》
用紙に表示されたその題を見て、私の拾い上げる手が止まる。
思い当たる節があった訳じゃない。けれど、少し気になって私は内容に目を移してしまった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時