𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟸𝟺 ページ25
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「……いなくなっちゃった」
翌朝、私の隣には誰の姿もなかった。
あるのは、人がいた痕跡のある冷たいベッドのみ。それからわかることは彼がかなり前にここを立ち去ったということ。
先生に見つかる前に部屋に戻ろうと腰を上げた時、私は持ち主の居なくなった机の上のある存在に気づいた。近づいて見ると、ベルギアの代わりにそこにあったのは1枚のメモ用紙。私があげた花はちゃんと貰ってくれたんだなぁ、と思いながらその用紙を見ると、並べられた文字にピタリと釘付けになった。
《今まで世話になった、A》
彼の性格に反した繊細な筆跡で、そう一言書かれていた。
"世話になった"だなんて、彼には似つかわしくない言葉。最後にこんな言葉……しかも置き手紙を残すとは、なんてずるい人なんだ。
また目が潤みそうになって、私は両頬を軽く叩いた。
もう泣かないって決めたんだから……!
私はメモ用紙を丁寧に折り畳むと、スカートのポケットに入れた。
私も今まで彼に頼っていた分、これからは1人で頑張らなければいけない。今日からまた私の新たな生活が始まるから。
彼のいない、私だけの生活が。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時