𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟸𝟸 ページ23
.𝙶𝚒𝚗 𝚂𝚒𝚍𝚎
遠くから烏の声が聞こえ、パチリと眼がひらく。
視線の先の時計は午前4時を知らせていた。まぁ、起きるにはちょうどいい時間。
室内に漂うのは、早朝特有の静けさと1人の寝息。この寝息を立てるAは、やはりあの後すぐに寝てしまった。
静かにベッドから出ると、机の上に置いてある例の花が寂しそうにこちらを向いていた。
ハーデンベルギア。花言葉は、壮麗、広い心、思いやり……
…………そして"運命的な出会い"
Aがその意味を知ってこれを選んだのかは知らないが、昨日のあの様子だと簡単に察することができた。あらかた、俺がもう消えるから言わなかったとかなんだろう。
……だいたい、こういう物は男が贈るんじゃねぇのか
この花を見て、コイツと最初に出会った日をふと思い出した。
《歳上に絡まれて、抵抗もできない弱いやつ》
これが奴の第一印象だった。
ところが、俺が慈悲の心で助ければすっかり懐いてしまった。知り合いも誰もいなかった俺に、友達になろうと話しかけたり、所有者もわからない犬と勝手に戯れたり。
変な奴だと思った。同時に、このAAという人間に興味が湧いた。
しかし、4年前のあの日に転機が訪れた。
「我々のボスがあなたを望んでおられます」
なんとも薄っぺらい言葉だと思った。しかし、目の前の黒ずくめの奴の話を聞けば驚きの事実がわかった。
俺の親戚が奴らの組織で働いていたこと、俺に名前があったこと。そして、俺の居場所が決まっていること。
賃金だって高く、衣食住にも困らないというその場所はまさに理想だった。その親戚とやらのお陰もあるからか結構優遇されやすいらしい。しかも、その組織のトップは大富豪ときた。
断わろうという考えはなかった。そんな居場所があるならば、むしろ行きたいとさえ思った。
しかし、何度目かの面会の時にその組織が普通では無いことを知った。
これから必要になる、と渡された小箱に入っていたもの……
それは、拳銃だった。
なぜこれが俺に。身を守るためか?……それとも、人を殺すためか?
何度尋ねても答えてはくれなかった。ただ決まって奴らが言うのは、"全ては組織のため"の一点張り。
仕方なく、毎日隠れて射撃の練習をした。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時