𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟾 ページ19
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陣くんが去る前日はとても憂鬱だった。
前日といっても彼がいなくなるのは明日の早朝。だから、今日で最後というのが正しいだろう。
過ぎゆく時間の1分、1秒がとても長く感じられて、まるで終わりのない観覧車の中にいるみたい。8年間も一緒にいた人が居なくなるのは、負の感情以外に何も湧かなかった。
「……えー、皆さん!突然ですが、今まで一緒に過ごしてきた黒澤くんとは今日でお別れになります」
みんなでいつも通り朝食を食べたあと、先生が全員を呼び出してそう言った。"え〜"と取って付けたような反応をする子どもたちに、急なことで残念ですが……と先生はそのまま続ける。
「……どうせ、俺と関わったことのねぇ連中ばかりのくせに」
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ……せっかくの雰囲気が台無しだよ」
当の本人はというと、私の隣で感情を浮かべることもなく興味がなさそうな様子。彼は私の言葉に鼻で笑うと、雰囲気もクソもあるかとそっぽを向いた。
確かに彼の言うことには一理あるのだ。彼は私と2人でいたから、他の子との交流は少ない。だからその逆も然り。必然的に私も話したことのない子がいるわけで。
"まぁしょうがないよね"と私は先生の方へ向き直った。
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その場で彼のお別れ会を軽く行えば、またいつも通りの日常が始まった。
彼は先生や施設長さんから何か話を聞いていたり、準備をしていたりと忙しそうで。
「あ、あの、先生。ちょっとお願いがあるんですけど……」
私はお昼休憩の後、近くにいた先生に話しかけた。
わざわざしゃがんでくれた先生に私が用件を話すと、驚いたように目を見開く。その様子に、無理かなぁと不安になったけれど、先生はしばらく考えるような仕草をした後に用件を承諾してくれた。
「……いいよ。じゃあ、支度して一緒に行こうか」
「あ、ありがとうございます!先生」
先生にお礼を言って、私は急いで自室に戻る。
そして数分後。サッと支度を終えた私は、先生と一緒に門をくぐった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時