𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟽 ページ18
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目の前に現れた黒光りする物体。
なぜならば、そこにあったのは真っ黒な塊──拳銃だったから。
「……これって、銃!?」
映画や本の中でしか見た事の無かったものが、私の前にあった。レプリカとかじゃない、本物の拳銃が。
驚く私とは対照的に、"結構いい代物だろ"と快活な表情で彼はそれを手にする。そんな様子を見て、少しでも彼に思いとどまって欲しくて私は訴えかけるように言った。
「ふ、普通の場所じゃないって!陣くんが行こうとしてる場所は………!」
人に拳銃を渡すなんて危ない場所に決まってる。そんなの考えなくたってわかること。ましてや、私たちはまだ未成年なのだ。
「……そんなことわかってる。だが、俺の居場所はもう最初から決まっていたわけだ」
"親戚がそこで世話になっていた時点でな"と彼は表情を変えずにそう言った。彼が拳銃を貰っていたのは、あの場にいた先生も知っていたはず。先生は例の黒ずくめの人と知り合いだったとは聞いていたけど。だとしても………
なんで、先生は止めてくれなかったの
私は、先生が危険な場所に行く彼を止めなかった理由がわからなかった。むしろ、彼がそこに行けるようにサポートしていたとすら思えてしまう。
「その会社というか組織って……どんなところなの?」
「……全部はわからねぇよ、俺だって。烏の濡れ羽色みてぇな黒色の組織って事ぐらいしかな」
彼は拳銃を再び箱に収めてベッドの下にしまった。
黒色の組織……その正体はいったいなんだろう。危険で、さらには子どもを利用してまで何かを成し遂げようとしている。
そう疑問に思う私を差し置いて、彼は他には何も言うことなく扉の方へ向かった。
そ、そんな………!
彼は恐らく、4年前からその組織が危険なところだと気づいていたんだろう。それを承知の上で、毎月面会をしていたのだ。きっとあの夏祭りの射的が上手だったのも、この拳銃が関係あったのかもしれない。
ここまで考えれば、今さら私が彼に何を言っても無駄なことは明白で。色々な感情がぐちゃぐちゃになって、私からは深いため息しか出なかった。
そんなに危険なところが居場所だというなら、私が彼の居場所になれればよかったのに。
そして、私は何も出来ないまま1ヶ月後を待つしかなかった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時