𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟻 ページ16
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時間が経つのは早いものだとよく言うけれど、本当にそうだと思う。
4年前の夏祭りの事がまるで昨日の事だと思ってしまうように。そう、ちょうど昨日はあの夏祭りの日だった。
「……陣くん、筍みたいになっちゃったね」
昼時の暖かな日差しが背中に照りつける。そんなポカポカした熱を受け止めながら、私は隣の幼なじみに声をかけた。
去年あたりから彼の身長は急に伸び始めた。それは筍みたいにすくすくと。私と今まで5センチくらいしか変わらなかったのが、今では10センチもあった。
「フン……お前がずっと小せぇままだからだろ」
彼に鼻で笑われてムッとする。私だって一応、伸びてるのに。
そんな私たちがいるのは、いつものあのお気に入りの場所。最近の彼は、自室にいる事がほとんどでここにいるのも珍しい方。何かしているようだけれど、それはよくわからない。
6年前から可愛がっていたクロくんは、もう歳をとっていてヨタヨタと歩いていた。
「1ヶ月後、だよね?」
クロくんを撫でながら、私はもう1度尋ねてしまった。
さっきまで話していた事が未だに信じられなくて。私の問いかけに彼の表情は再び消えた。
「……あぁ。来月ここを出る」
幾分か低くなった彼の声がやけに耳に響く。
4年前に、14になったらここを出ると清々しそうに話していた少年の姿はそこにはなかった。代わりにあるのは、少し焦燥に駆られたような彼の姿。
あぁ、遂に来てしまったのだ。この時が。陣くんがこの施設を去る日が。
やっぱり信じられないよ、私……幸せな時間を過ごしすぎちゃったから
どんなに気を紛らわそうとしても、やるせない気持ちになるだけで。私が何も言えなくて俯いていると彼が私に体を向けた。
「………この後、俺の部屋に来て欲しい」
"見せたいもんがある"と言うその表情はいつになく真剣なものだった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時