𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟹 ページ14
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「見て、輪投げだって」
私が足を止めたのは、看板にでかでかと書かれた《輪投げ》の文字。
いや、正確には私は景品の黒いクマのストラップに足を止めたのだ。真ん中の棒に輪を通せればこのストラップが貰えるらしい。
「…………」
隣の彼は興味なさげに見ていたけど、私はストラップに惹かれて挑戦することにした。屋台のおじさんから10個ほど輪をもらって手にかける。そして、地面に引かれた白線上からそれを投げた。
「それっ」
ポイッと投げた輪は勢い余って奥まで飛んでしまった。もう1回、と腕を振れば今度は左下の棒の中へ。
下じゃなくて、真ん中に入れたいのに……!
中心の位置は、微妙に遠くて上手く力加減ができない。次に投げて落ちた場所は棒と棒の隙間。私には輪投げの才がないのかとおもわず項垂れた。
ポイポイッと投げていくうちに、気づけば私の手は空に。"もう1回!"とねだればおじさんは困った様に後ろを指さす。
「君たち、後ろ」
私が振り向けばズラリと次の子たちが並んでいた。
……まぁ、仕方ないか。ストラップは欲しかったけど、今日はいっぱいお菓子や景品が貰えたし。
店頭にぶら下がったストラップに、私は後ろ髪を引かれる思いでお別れをすることにした。
そして、歩き疲れた私たちは休憩と称して木の下に座り込んだ。それからのんびりと屋台や辺りを行き来する子どもたちの様子を眺める。
ヨーヨーや、スーパーボール、焼きそばにラムネ……それぞれ色んな物を持っていて、みんな楽しそう。その中には"あ、こんな子いたんだな"と思う子たちが何人かいた。ずっと陣くんと一緒にいたから、私はあまり他の子と話したことがなかったのだ。
私がじっと屋台を眺めていたその時、遠くからドーンと大きな音がした。
何かが空中で弾けたようなくぐもった音。私がおもわず顔を上げると、夜空はたくさんの色で飾られていて。
「わぁ!花火だ……」
中々見られない光景に、私はおもわず感嘆の声を上げた。
「ねぇ、すごく───」
"綺麗だね"と隣の彼を見ると私はおもわずドキリとしてしまった。
だって、花火に見入る彼の横顔はとても綺麗だったから。そのシルバーブロンドは色彩を反射して輝いていて。その淡い深碧の瞳でさえ、いつもより鮮やかな気がしてならなかった。
この時、私はそんな彼に見入っていた。
……いや、違う。
私は見惚れていたのだ、その姿に。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年6月11日 11時