清純の追憶･前編《名探偵コナン》 (ページ12)

今日:88 hit、昨日:126 hit、合計:70,066 hit

𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟷 ページ12

.

40～50代くらいだろうか。少ししゃがれたその声は、私の耳に強く響いた。

「ご、ごめんなさい！友達が気になっちゃって……」

急いで私が謝ると、男の人はいいんですよと施設の方に目線を移した。黒い帽子に黒い背びろ……きっとこの人も陣くんの言ってた会社の人で、応接室にいる黒ずくめの人達と関係があるんだろう。

「彼は我々にとって必要な人材……ですからね」

そう男の人が言うと、私の方に向き直った。自然と私たちの目線が交わり、グワッと男の人の左目が見開かれる。

「Time is money(時は金なり)……残された時間を大切に使うことですね」

その言葉を聞くと、なぜか急にバクバクと心臓が早鐘を打った。

何……これ

一瞬、金縛りにあったように動けなくなる。今の私を例えるならば、まさに蛇に睨まれた蛙。なんだろう……何故かは分からないけど私は思ったのだ。"この人に近づいちゃいけない"って。

男の人はそんな固まる私を横目に、施設の門を出ていった。
私はその場に立ち尽くし、ハァハァと荒くなった息を整える。そうこうしてるうちに、玄関奥から黒ずくめの人の姿が見えて、私は慌てて教室に入った。

❉

「おい、どうした」

後から戻ってきた陣くんに心配されたが、今あったことを言えるわけもなく。

「う、うん。ちょっと気分が悪くなっただけだから……」

"気にしないで"と言うと、彼はふーんと目を細めた。
……とりあえず誤魔化せたみたい。疑惑の目で見られている気もするけど、あまり気にしないでおこう。

やっと落ち着いた私の前を、2人の女の子が話しながら通り過ぎていった。

「夏祭りだって、楽しみだね〜」

「うん、外出するのっていつぶりだろう！」

夏祭り？と私が呟くと、陣くんが隣で思い出したように言った。

「あぁ……来週そこの公園で開催される祭りのことだろ」

「あ、そうなんだ」

全然知らなかった、お祭りがあるなんて。少し彼に話を聞いてみれば、この施設の支援者の人たちが私たちのために開催してくれるんだとか。しかも料金はいらなくて、自由に遊んだり食べたりできるらしい。
さっきの子も言ってたけど、確かに外出をするのは何ヶ月ぶりかな気がする。

──"残された時間を大切に使うことですね……"

ふと、さっきの男の人が言っていた言葉が頭に浮かんだ。

これも陣くんとの残された時間の1つ。
思う存分に楽しまないとな、と私は気を引き締めた。