◆君に毒林檎をあげる【rbr】 ページ5
＊白雪姫ぽい何か
林檎を齧る。
口の中に広がった味はいつも通りのもので、酷く安心した。
「また林檎食ってるんか？」
ほんま好きやなあ、と言った彼は何がおかしいのかクスクスと笑っている。
「ロボロもひとついかが？」
「おん、貰うわ…」
カゴに積まれた林檎の中からひとつ取る。
それを彼にわたせば、私の隣に座った彼はぼんやりとそれを見ている。
「…お前が食うかと思って、リンゴ持って来てたんやけど、これだけあるならいらんよな」
「いる！リンゴならいくらあっても良いよー」
「でも、さすがに腐らすで？」
カゴには既にたくさんの林檎があるからだろう。彼は微妙な顔をした。が、直ぐに紙袋をこちらに寄越す。
中には2、3個の林檎が入っていた。
「ありがとー」
「どういたしまして」
お礼を言ったあとは、2人でむしゃむしゃと林檎を食べる。取り留めのない話をいつものようにして、そして笑い合う。
「リンゴばかりやなくて、普通のご飯もちゃんと食べるんやで？」
「もちろん。ちゃんと食べてるよ？」
「いつもリンゴ食べてるところしか見ないんやけど…」
「あはは、流石に栄養偏りすぎるよ」
林檎を食べ終え、手を洗うついでに近くの泉に行く。いつものようにカゴを持とうと思えば、ロボロが代わりに持つと言って持ってくれた。
「持たせちゃってごめんね？」
「ええよ、どうせ泉なんてすぐそこやし」
私はロボロから貰った林檎を手に抱えて歩く。森の中は静かだ。
「最近は昔みたいにロボロが来ることが少なくなったね」
「Aが城下町に来ればええやろ？」
「んー、それはそうだけどねえ」
何となくここに居たい、と思うんだ。そう続ける。泉で手を洗ったらまた2人で森の中を歩く。
あれは何時だったっけ？森で迷った君に会ったのは。
あれは何時だったっけ？2人で森を駆け回ったのは。
あれは何時だったっけ？君があの大きな城へ行ってしまったのは？
そんなことをぼんやりと考えながら、歩いていく。
「ロボロがくれたやつ、食べていい？」
「ええけど、今手を洗ったばっかりやん」
「ふふ、また洗えばいいの」
紙袋から林檎を取り出して、「じゃ、いただくね？」と言う。彼の横顔をちらりと見た。
「天」と書かれた紙の隙間でいつにも増して綺麗に笑うロボロが見える。
「…＿＿＿」
何かを呟いた。
なんと言ったのだろう？
ぼんやり考えながら、林檎を齧る。口の中にいつもの味が広がった。
(毒林檎には、気をつけて？)
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