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巴さんが優しく笑ったからか、花那さんもきつく結んでいた口元を緩ませ、私を見つめる。
「Aちゃん、思った通り優しい子なんだ。健屋さんは大丈夫よ、ね？健屋さん」
「私、後輩に気を遣われるの嫌だよ！Aちゃん、絶対追いつくからそれまで巴さんと存分にイチャついてるといいよ！！」
花那さんは「宣戦布告だ！」と言わんばかりにフン！と笑うとすぐにデスクに向かう。
巴さんはその様子をしっかり見届けると小さくクスリと笑い、また私に腕を絡ませて歩き始めた。
静かな廊下には、巴さんのピンヒールの音だけがカツカツと響いていた。
無論、腕は解放されないままで、ゼロ距離の巴さんからはほんのり上品な甘い香りがした。
「あ、あの……」
沈黙に耐えられず、私は小さく声を漏らす。
「んー？どうしたの？」
そんな私のことを、まるで小さい子をあやす様な声で巴さんは返事をした。
今までの人達とは違う雰囲気に飲まれそうになりながら、荒ぶった鼓動を抑えるために勇気を持って言う。
「ちょっと、近い、かなって、」
私の言葉に巴さんはふふっと不敵に笑うと楽しそうに言う。
「んー？何がかしら」
確信犯なのだろう。
私のリアクションを見て楽しんでいる。
きっと私は今巴さんの手の内で踊るピエロでしか無いのだろう。
そんなことを思っていても、不思議と、嫌な気分ではない。
むしろ、腕から伝わる巴さんの暖かい体温が、私の戸惑いや孤独感さえ包み込んでくれるような、そんな気分になっていた。
──こんなのは、独りよがりにすぎないのだろうが。
「よし！ついた！」
何回角を曲がっただろうか。
巴さんは怪しげな扉の前に立つ。
「ここは…？」
訝しげに扉を見つめる私に、巴さんは楽しそうに笑い、躊躇なく扉を開けた。
「私たちの居場所《夜王国》だよ。」
中は思っていたよりも広かった。
手前にバーのカウンターが並んでおり、まるで未成年が入っては行けないような大人の夜の雰囲気だ。
カウンターの正面には小さいステージがあり、その間をソファが机を囲むように配置されている。
天井にはミラーボールがあり、私は勝手にホストクラブはこういった場所で行われているのだろうなと思っていた。
扉を開けて真っ直ぐカウンターに座る巴さんの後ろを追い、キョロキョロと周りをみながら私もカウンターへ座る。
すると、バーカウンターの中から落ち着く声が聞こえた。
「あれ、珍しい。白雪殿が健屋殿以外を連れてくるなんて。」
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作者名：WAJ | 作成日時：2021年4月9日 1時
