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私は困惑したまま、一応、誰が来たのか晴さんに伝えておこうと部屋に戻る。
「晴さん、お客さん、藤士郎さんと景さんでした、よ」
開けた窓から風が入り込み、私のローブを揺らした。
静かな部屋の中、キッチンから聞こえる景さんの楽しそうな笑い声に我慢できなかったようで。
「……晴さん、泣いているんですか?」
「べつに、泣いて、ないしッ」
晴さんが1人になりたかったのは、1人で泣きたかったからなのだろうか。
だとしたら、私がずっと居座っていたのは、迷惑だったかもしれないな、なんて思いながら、私は晴さんの横に座る。
「晴さんは、強いですね。」
きっと、大丈夫だ。
この3人は、私が思っている以上に強くて、固い絆で結ばれているんだ。
そこに、私が入る隙間はないんだろうな。
私は立ち上がると晴さんに挨拶をする。
「私はもう、帰りますね。お身体大事にしてください」
ここから先は3人の物語なんだろう。
私の言葉で察したのか、晴さんは申し訳なさそうに涙を拭い、笑顔を作りながら言った。
「Aちゃん、今日は、ありがとう。また、遊びにおいで、今度は甲斐田が元気な時に。」
「はい!ぜひ」
私は晴さんにぺこりとお辞儀をし、部屋を後にした。
本当は藤士郎さんや景さんにも挨拶をするべきだったのだろうが、2人とも忙しそうだったから何も告げず出てきてしまった。
帰り道なんて、分からないはずなのに、なんとなく歩いていたら大きな扉の前にたどり着いた。
不思議だ。まるで扉に導かれているようだった。
帰る時は鍵は指す必要はない。
私はドアノブに手をかけると扉に力を入れた。
「A、帰んの?」
足を踏み出した瞬間、背後から声が聞こえる。
「景さん、」
「晴さー、おれの料理じゃ食わねえんだよな」
だから晴に追い出されちった、と笑う景さん。
「3人が仲直りできたみたいで、よかったです」
「Aのおかげだよ」
景さんの言葉に、私は固まる。
「え、」
何もしてないです、と心の中で言うが、驚きで言葉が出なかった。
景さんはそんな私の様子を見てケラケラと笑うと、私に近付き、私の頭をぽんぽんっと2回軽く叩くと優しい笑顔で言った。
「晴と話してくれて、ありがとな。」
晴さんに似た、優しい笑顔だった。
「いえ、わたしは、なにも。」
景さんに釣られるように私もへらっと笑うと、突然、体に電流が走ったような痛みを感じた。
「っ、!」
私はその場に蹲った。
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WAJ - ゆめなさん» ありがとうございます!そう言っていただけると本当に力になります!これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月25日 10時) (レス) id: fa85d0ee74 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめな(プロフ) - 好きです…!!毎日更新が楽しみです!! (2021年2月24日 23時) (レス) id: 9f72c6a150 (このIDを非表示/違反報告)
WAJ - 野生のきゅうりさん» 応援ありがとうございます!長編になる予感はしていますがもうオチまで考えているので最後まで主人公を導けるように頑張ります!よろしくお願いします! (2021年2月16日 9時) (レス) id: 59ac59be38 (このIDを非表示/違反報告)
野生のきゅうり(プロフ) - 好きな感じのやつです……!!!更新頑張ってくださいー!続きが気になるヤツ久しぶりに見ました笑 (2021年2月16日 0時) (レス) id: 66eb00c237 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:WAJ | 作成日時:2021年2月7日 1時