検索窓
今日:9 hit、昨日:87 hit、合計:59,218 hit

32 ページ33

「す、すいません……」

顔が赤くなっていくことが自分でもわかる。

両手で顔を覆いながら、興味深そうに私のことを観察してくる灰さんに慌てて話題を戻す。

「私の過去にトラウマ…って!なんでしょうか」

私の言葉に灰さんはハッとしたように「そうそう」と話を戻すと、手を顎に当てながらゆっくり喋り始めた。

「少しだけ健屋とも話してたんだけど、Aの記憶喪失は、自分自身の記憶だけを忘れてしまっていて、その他のことは覚えているっぽいんだよね。」

思い返してみれば確かにそうだ。

自分はどこから来たのか、どうやって来たのか、名前はなんなのか。

そういう自分のことはわからないのに、

「悪魔や吸血鬼の存在は知っていた、っていうのは過去の自分の記憶の中にあったからなんだよね。」

またも、私が考えていたことを灰さんが言葉に出す。

これは単純に、灰さんと考えが被ってしまったと言えるが。

「たしかに、全ての記憶を無くしていたら喋ることすらままならないかもしれません。」

私の言葉に灰さんは頷くと、「ここからは推測だけど」と言葉を繋げる。

灰さんはもったいぶるように沈黙を作ると、真っ直ぐ私の目を見て言った。

「Aは、過去の自分を思い出したくないのかもしれない。」

窓の外に、風が吹く。

木々が揺れ、集っていた小鳥が散った。

喉の乾きを潤すように私はゆっくり唾を飲み込むと、震える声で聞いた。

「それは、どうして。」

灰さんは私の反応に少しだけ躊躇うと、目を逸らしながら言う。

「これは、剣持さんと話していたんだけど、Aは、なにか、過去のことを思い出せるようなキーワードや状況に出会った時、体が拒否反応を起こすみたいなんだよね。」

今まで、ひまわりさんの配信者という単語以外に、なにかそういう兆しがあったのか、と考える。

心当たりがあるとすれば、ファンタジーの世界で叶さんと出会った時、過去を思い出そうとして、頭痛でしゃがみこんでしまったことがある。

それ以外にも、今朝、懐かしい夢を見たような気がして記憶を辿ろうとしたら、頭痛がした。

──つまり、私は灰さんの言う通り…。

「過去を、自ら捨てた、ってこと、ですか。」

私の言葉に灰さんは「まぁ、それは深く考えすぎかもしれないけど、そういう解釈も、できるよね。」と頷く。

俯く私に、灰さんは戸惑うように視線を泳がせる。

部屋に再び沈黙が訪れた。

33→←31



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (60 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
214人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

WAJ - ゆめなさん» ありがとうございます!そう言っていただけると本当に力になります!これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月25日 10時) (レス) id: fa85d0ee74 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめな(プロフ) - 好きです…!!毎日更新が楽しみです!! (2021年2月24日 23時) (レス) id: 9f72c6a150 (このIDを非表示/違反報告)
WAJ - 野生のきゅうりさん» 応援ありがとうございます!長編になる予感はしていますがもうオチまで考えているので最後まで主人公を導けるように頑張ります!よろしくお願いします! (2021年2月16日 9時) (レス) id: 59ac59be38 (このIDを非表示/違反報告)
野生のきゅうり(プロフ) - 好きな感じのやつです……!!!更新頑張ってくださいー!続きが気になるヤツ久しぶりに見ました笑 (2021年2月16日 0時) (レス) id: 66eb00c237 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:WAJ | 作成日時:2021年2月7日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。