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圧倒されるしかない。
スマートフォンの映像で見ている北斗とちがって、スバルはAと一緒に間近でこれを目撃してしまった。
全身の骨を砕かれるような衝撃だった。
あらためて映像で見ても、すごいけれど。
生の迫力とは、段違いだ。
音というものが、肌に突き刺さるほど痛いものだと初めて知った。
痛めつけられて、ふん縛られて、屈服(くっぷく)するしかなかった。
軽音部部室で『Trickstar』のみんなが見せてくれたような、愛情のあるパフォーマンスではなかった。
魂は、震えていた。
『紅月』は巨大で、抵抗もできず呑(の)こまれるしかない、得体の知れない恐ろしい怪物だった。
「伝統芸能を主とする、などという風聞(ふうぶん)だけでは『紅月』には地味な印象しかないが。
完璧な王者と、無敵の大将軍と、忠義(ちゅうぎ)の鬼のような若侍(わかざむらい)の3人組だ。
これは予想以上に強いぞ、寒気(さむけ)がするほどに」
北斗も打ちのめされた様子ながらも、納得したように頷いた。
「この『紅月』のパフォーマンスを間近で見てしまったなら、明星が圧倒されてしまうのも無理はない。
映像で見ただけの俺ですら、肝(きも)が冷える」
「ちがうよ」
ようやく落ちついてきたのか、手の甲(こう)で涙を拭(ぬぐ)って____スバルが呻(うめ)いた。
「『紅月』なんか、どうでもいい。生徒会が強大なのは知ってたからね、今さら驚(おどろ)かない。問題なのは、その後だ」
スバルは、小刻みに震えていた。
絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)を受けて、大事なものをぜんぶ焼き尽くされてしまったみたいだ。
「その後が、地獄だった」
「ごめん、心配かけて」
『講堂』の天井を仰(あお)ぎ、スバルが呻いた。
スマートフォンから流れるちいさな音量にすらかき消されてしまうほどの、儚(はかな)い声音(こわね)。
周りにいる北斗を、真を、順繰(じゅんぐ)りに見て____ほっとしたように微笑(ほほえ)む。
「俺自身、落ち込むことなんて滅多(めった)にないから。自分が何でこんなに動転してるのか、わかんない。
整理するためにも、ちゃんと説明するよ」
おおきく深呼吸してから、ひどく神妙に語る。
「公式ドリフェスでは、上位の『ユニット』から順番に演目をこなしていく」
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年2月10日 16時
