捌拾伍 ページ46
「そういう訳で、翔閃を貸してほしい。」
「あァ?他当たれよォ。でけェし、付いてるし、ぺったんこだァ。入れたとしても、すぐバレるだろォ。」
「それは承知の上だ。でかくても、付いてても、ぺったんこでもいい。コイツの顔が必要なんだ。不死川、派手に頼む!」
自尊心の高い音柱が、風柱に頭を下げている。
そこまでして、雛鶴たちを心配しているのだろう。
「話は分かったァ。翔閃、お前はどうなんだァ?嫌なら断るぞ。」
「雛鶴姐さんたちにも、世話になってるっすから……実弥が駄目だって言っても力ずくで説き伏せてでも行くつもりではいたっすよ。」
「決まりだ、宇髄。連れてっていいぜェ。」
「不死川、恩に「ただし!五体満足で返せェ。」ああ、分かった。」
話が終わると、風柱はさっさと自室へ再び引っ込んでしまった。
「で、雛鶴姐さんたちを潜入させてるって言うなら三箇所っすよね?俺以外にあてあるんすか?」
「一応な。準備出来たら、蝶屋敷に来てくれ。」
「へぇへぇ。」
後でな、と言って音柱は不死川邸から去っていった。
雛鶴たちの為とは言え、する機会もする気もないと言っていた女装をすることになったことに俺はため息をついた。
自室に戻って着流しから隊服へと着替えていると、襖が開いた。
振り向けばそこに風柱がいて、隊服の釦を止めようとしていた手が止まった。
「実弥、それどんな感情の顔っすか?」
「俺もお前も同じ鬼殺隊の隊士だ、鬼が出るなら行かねェ選択肢はねェ。俺が補佐に推したくらいだ、実力も知ってる。」
「うん。」
「本音を言えば、行かせたくねェ…公私混同してんのは、分かってんだけどなァ。クソッ…」
俺の側まで来て、風柱は指先で俺の胸板を撫で下ろして葛藤するように釦が止まっていない隊服を握りしめた。
「ちゃんと帰ってくるっすよ。無限列車の時だって、ちゃんと帰ってきたじゃねーですか。」
「……意識無かっただろォが。」
「それは面目ねーっす。…実弥、顔上げてくだせー。」
下を向いてた風柱の顎をくいっ、と持ち上げれば、葛藤で揺れる藤色の瞳があった。
そのまま腰を抱き寄せて、風柱の唇に俺の温もりを残す。
戯れだけのつもりが、風柱に求められて俺の舌が口内で暴れ出す。
「ふぁ…っ。」
「帰ったら続き…約束するっす。」
「……っ、さっさと行ってこいっ。」
とん、と胸板を押され、風柱が離れていった。
愛してる、と音無き言葉で言えば、バァカ、と同じく返された。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年5月4日 21時