捌拾弐 ページ42
吾妻の指がぴくん、と跳ねた。
「俺…耳良いから、分かってたよ。翔閃に好い人がいるのも。でも、ちょっとでもいいから俺を見てほしくてさ。……最低だよね、俺。」
「俺の方が最低だろーな。俺も楽しんでるとこあったから。」
「そうだね、最低なの翔閃じゃん。」
「だろ?」
そう言って我妻の手から視線を上げると、眉尻下げたたんぽぽが切なげに笑っていた。
「似合わねーよ、善逸にそんな顔。」
「翔閃のせいだろ…どうにかしろよ。」
「どーにかって……」
我妻の瞳が揺れている。
俺の鴉と我妻の雀も今はいない。
葛藤する俺に、悪魔が囁いた。
「いいぜ、どーにかしてやるよ。」
指先だけが触れ合っていたのを、俺から手を掴んだ。
そのまま俺の方へと引き寄せれば、たんぽぽが体を預けてきた。
「翔閃……」
「どーしてほしー?俺のせいにしていいから、俺に教えてくれねー?」
そう言えば、善逸の唇は接吻、と音を紡ぐ。
掴んでいた手を離し、右手の指の背で頬を撫でると我妻は目を細めた。
そのまま右手を後頭部に回して、我妻のそれに俺のを重ねる。
触れ合うだけの接吻を繰り返していると、俺の名前を呼ぼうとしたのか我妻の唇が割れた。
「んぅ…っ。」
ピーピーギャーギャー騒いでるとは思えないほどの、音が我妻から漏れ聞こえてくる。
捕まえようとするが、我妻が逃げるから俺は執拗に追い回す。
かと思えば、積極的に擦り寄ってくる。
苦しくなったのか、我妻の右手が俺の胸を叩いて訴えてきた。
離れる前に我妻の下唇を、ちうっ、と吸ってやった。
「はぁ…はぁ…翔閃……」
「
接吻で濡れた我妻の唇を、左手の親指で撫でる。
「翔閃なんか
「俺も、
嫌いと言うのに、普段とは結び付かないくらいに甘ったるい声で表情も真逆だった。
「任務ゥ!任務ダァァァァ!」
バサバサ、と聞こえ、俺の鴉の碓氷が窓から飛び込んできた。
我妻から離れると、あからさまに瞳が揺れていた。
嫌いと言ったのは、どの口だ。
「内容はどんなっすか?碓氷。」
刀を帯へ差し込む。
窓から吹き込む風に、髪と羽織が揺れる。
「今スグ迎エェェェ!」
「今からっすか…」
「大変そうだね。」
「まーな…行くわ。」
「気をつけて。」
「おう。」
残酷な程の優しさを我妻の唇に残して、俺は任務へと向かった。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年5月4日 21時