風と継子とおはぎとずんだ2 (ページ33)

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漆拾参ページ33

ドンッ

乗客を救出していると、地面が揺れるような強い鬼の気配を感じ取った。

｢…な、んだ…この気配っ！｣

慌てて俺は、炎柱に任せた竈門の下へ向かった。
嫌な予感がする。
不安が込み上げて、胃が重い。
竈門を視認できる所まで行くと、炎柱は日輪刀を抜こうとしていた。
その視線の先には、今までとは格の違う気配を持った鬼がいた。
竈門が座ったり立ち上がったりする様子が無いと分かると、俺は速度を上げた。

｢風の呼吸、弐ノ型爪々・科戸風っ！｣

炎柱が攻撃を出すのと同時に、俺も刀を振り下ろす。
鬼の腕が、炎柱の斬撃で縦に斬れ、俺の四つの斬撃で斜めに四つに別れた。
鬼は華麗な身のこなしで、俺たちと距離を取った。
炎柱と並ぶように、俺は竈門を背に鬼と対峙する。

｢いい刀だ。｣

そう言う鬼の腕は、あっという間に再生した。
圧が…凄いっ。
ビリビリする…っ。

｢何故、手負いの者から狙うのか…理解できない。｣

｢話の邪魔になるかと思った。俺とお前たちとの…｣

｢我らと君が何の話をする。初対面だが、俺は既に君のことが嫌いだ。｣

｢そもそも鬼は嫌いだ、話すことなんてねーよ。｣

俺は嫌悪も憎悪もむき出しで鬼を睨みつけている。
鬼は、何が面白いのか口が弧を描いている。

｢そうか、俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る。｣

｢我らと君とでは物事の価値基準が違うようだ。｣

｢では、素晴らしい提案をしよう。お前たちも鬼にならないか？｣

｢ならない。/ならねーよ。｣

どこが素晴らしい提案だ、ふざけるな。
刀を握る手に、力が入る。

｢見ればわかる。お前の強さ、柱だな？その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い。それに髪の長いお前、まだまだ伸びしろがある。｣

｢俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ。｣

｢風柱補佐、氷月翔閃。てめーを滅殺する男の名前だ。｣

｢俺は猗窩座。杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないのか…教えてやろう。…人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。翔閃、今鬼になれば目を見張る速さで強くなれる。鬼になろう、杏寿郎。翔閃。そうすれば、百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる。｣

人ならば男前だったであろう猗窩座が、微笑んで勧誘してくる。

｢老いることも、死ぬことも…人間っつー儚い生きもんだからこその美しさなんだよ。｣

｢老いるからこそ、死ぬからこそ、たまらなく愛しく尊いのだ。｣

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