漆拾 ページ30
｢誰なんだ…この人たち……｣
炎柱にも、我妻にも、嘴平にも、全く知りもしない人間が手首を各々縄で繋げていた。
もしかして、と思い、俺は自身の手首を見やる。
人とは繋がっていないが、しっかり縄が結ばれていた。
違うとしたら、燃える何かで焼き切った跡があるかないかだ。
｢はっ…なんだよ、
ふざけんな。
握りしめた右手の掌に、爪がくい込んで痛い。
竈門が何かに気づいたらしく、縄と切符の匂いを嗅いでいた。
｢切符を切った時に、眠らされたんだ。｣
｢きっかけはそれか…くそっ！急に眠くなったと思ったら、そーゆーことかよ……っ！｣
竈門が立ち上がり、日輪刀に手をかけ炎柱の前に立った。
｢待て！縄を切るな！｣
｢どうして！？早く切らないと！｣
｢いや、切らねー方がいいかもしれねー。おい、禰豆子。これをやったのはお前だな？｣
焼き切れた縄を禰豆子に見せ、俺は断定した言い方で聞くと禰豆子はコクリ、と頷いた。
｢頼む…皆の縄、燃やしてくれ。｣
鬼に頭を下げるなんてどうかしてる、そう思ってる自分と、禰豆子は大丈夫だ、と信頼している自分がいる。
状況が状況だ。使えるものは使う。
禰豆子も分かってくれたらしく、すぐさま三人の縄を燃やしてくれた。
俺は望みをかけて、もう一度我妻を揺する。
｢善逸っ、起きろ！起きろ、善逸っ！起きてくれ、善逸っ！｣
それでも我妻は起きない。
それどころか寝言で、俺の名前を呼ぶ始末。
｢ここにいんだろーがっ、馬鹿野郎っ!｣
起きない我妻の肩口に額を乗せ、罵った。
竈門は嘴平を起こそうと試みるが、我妻と同様起きることは無かった。
禰豆子は兄に、褒めろとばかりに頭を差し出している。
それに気づき撫でる竈門の後ろに、炎柱に絞めあげられていた女子が桐を手に迫っていた。
｢危ないっ！｣
｢えっ！？｣
俺の声に反応した竈門は、辛うじて女子の桐を避けた。
｢邪魔しないでよっ！あんたたちが来たせいで…夢を見せてもらえないじゃないっ！！｣
｢甘言に惑わされた協力者か…｣
女子だけではなく、俺たちと繋がってた子たちも睨みつけ前に立ちはだかった。
ただ一人、竈門と繋がってたであろう男子だけはそこへ加勢しなかった。
邪魔しないで、と喚いた女子に加勢しろだの、夢を見させてもらえないようにするだの言われてる。
どうやら、結核らしい。
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作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年5月4日 21時
