陸拾漆 ページ27
｢炎の呼吸は歴史が古い。炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた。炎、水、風、岩、雷は基本の呼吸だ。他の呼吸はそれらから枝分かれして出来たのだ。霞は風から派生している。｣
｢ま、中には型外れもあるけどな。｣
そう呟いて、俺は嘴平を見やった。
猪頭の目玉のせいで、どこを見ているのかさっぱりだ。
｢溝口少年！君の刀は何色だ。｣
｢俺は竈門ですよ。色は黒です。｣
｢黒刀か、それはきついな！｣
何が面白いのか、炎柱が声高らかに笑った。
｢きついんですかね…？｣
｢黒刀の剣士で、柱になったのを見たことがない。｣
｢それに、黒刀だとどの系統を極めればいいかわからねーって聞いた。…ま、異端な剣士もいるかもしれねーけど。｣
｢翔閃、それ本当？｣
背もたれから顔を出して、竈門が俺を見て聞いてきた。
｢兄貴に聞いたから間違いねーよ。異端な剣士に関しては、嘴平がそうだろ。五行の呼吸でもその派生でもない、獣の呼吸なわけだし。｣
｢あ、確かに。｣
｢こっからは、俺の推測だけど…過去にあって今にない呼吸に適した色なのかもしれねーだろ。黒刀ってのが。例えば、ヒノカミ神楽……とか？｣
ニッ、と笑えば、竈門は驚いていた。
考え至らなかったのだろう。
俺も、趣味が読書でなければ考えもしなかっただろうし。
｢そういうことだ。俺のところで鍛えてあげよう！｣
｢それは、安心だな。継子になるならないは別にして、鍛えてもらえよ。｣
炎柱との鍛錬を竈門に勧めながら、任務で忙しくて稽古見てもらってないことを思い出した。
｢すっげー！すっげー！はえーっ！｣
｢危ないっ！馬鹿このっ！｣
｢俺外に出て走るから！どっちが速いか競走するっ！｣
｢馬鹿にも程があるだろっ！！｣
目の前の光景に、俺はこめかみを押さえた。
そろそろ、頭痛くなりそうだ。
｢危険だぜ？いつ鬼が出てくるか、分かんねーんだから。｣
｢へ？嘘！？鬼出るの！？この汽車！！｣
嘴平から手を離して、我妻は俺の眼前に顔を寄せてきた。
列車の揺れで下手すりゃ接吻しそうな、そんな距離。
｢出る。出なかったら、ここに俺も兄貴もいねーよ？｣
｢出んのかいっ！！！｣
知らなかったようで、俺から離れたかと思うと汚い高い声を出して騒ぎ出した。
｢鬼のところに移動してるんじゃなく、ここに出るのぉぉぉ！？！？イイィィィィヤァァァァァッ！！！！！俺降りるぅぅぅぅっ！！！｣
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作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年5月4日 21時
