陸拾壱 ページ21
自宅への道すがら、警戒しつつも護衛対象とは上っ面ではあるが仲良くはなった。
老婆はトミ、少女はふくという名前らしい。
ふくは今までの言動から見ても分かるが、家族思いで頑張り屋の優しい女の子だった。
そのせいか、炎柱に投げつけてしまった無礼な言葉たちのことを気にしていた。
｢まー、至って普通の反応だったすけどね。兄貴のことだから、気にしてねーと思うしたぶん笑い飛ばしちまうっすよ。｣
｢そ、そう…かな。｣
｢そーっすよ。｣
快活な炎柱だ、盛大に笑ってるところなんて容易に想像出来る。
｢氷月さん、あなたはあの方の弟さんで？｣
｢
｢そうなの。｣
他愛もない話をしながら、道を歩く。
炎柱は気持ちのいい月夜だ、と言っていたが、どこがだ。
むしろ、気持ち悪さしか感じ得なかった。
───
｢まったく、ふくは聞かん子だね。｣
｢手伝うったら手伝うの！｣
｢トミさん、俺代わりますよ？｣
｢年寄り、舐めちゃいけないよ、氷月さん。｣
日付が変わり早朝と呼べる時間、荷車に弁当を積み込んで俺は二人と共に再び駅へと戻ってきた。
｢おはようございまーす！｣
二階だろうか。
窓から外を眺めていた駅員に、ふくが挨拶をすると向こうも返してきた。
駅舎内に入り、トミとふくは急かせかと商品を並べてりと開店に向けて作業をしている。
俺はそれを眺めながら、切り裂き魔と呼ばれている鬼がいつ出ても対処出来るよう警戒を怠らない。
｢ん？｣
背後から鬼の気配を感じ、振り返った俺は刀に手をかけて暗闇を凝視する。
｢駅員、さん？｣
店の前で商品を並べていたふくの声。
｢臭う、臭うぜ。｣
トミでもふくでもない。
ましてや、機関庫へ行った炎柱でもない聞き知らぬ声に、俺は刀を抜いた。
｢お前だな？臭ぇ弁当の匂いが染み付いてやがる。お前に恨みはねぇ、あの鬼狩りが全部悪いのさ！｣
暗闇から現れたのは、鬼だった。
後ろでふくがジリジリ、と後ずさっているのが聞こえる。
｢止まれ。｣
｢なんだ？邪魔するってんなら、お前も食ってやるぜ？｣
｢やってみろや。｣
刀を握り直した時、鬼の後ろに弁当を抱えたトミが見えた。
あろうことか、トミはその内の一つを鬼へと投げつける。
｢逃げるんだよっ！ふくっ！｣
｢何しやがるババア！｣
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作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年5月4日 21時
