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ハンフリー本来の強さを、観客に見せつけるようなエキシビションマッチであった。
チャンプという名に相応しい実力もなければ、立派な人間でもないことくらい本人は既に自覚済みだろう。
｢お前たちのおかげで、格闘家としての良心を取り戻せたような気がする。気づかせてくれて、ありがとな……｣
イレブンにそう言い残し、ハンフリーはリングを去ろうと歩き出した。
｢かっけーぞ！ハンフリー！｣
口に手を添えゼクは元チャンプの背中に、そう言葉を投げた。
それを皮切りに、観客達がハンフリーを賞賛し今までの功績を称える。
鳴り止まないハンフリーコールに、天を仰ぐ男はまるで涙を流すまいとしているようだった。
｢それでは、チャンピオンであるイレブンさんに、優勝賞品である虹色の枝の贈呈を……｣
やっと手元にやってくると思ったのもつかの間、慌ててスタッフの男がリングへ駆け込んできて虹色の枝が盗まれた、と報告してきた。
虹色の枝があった場所には、一行にも見覚えのある仮面とイレブン宛の手紙が置いてあったらしい。
｢な……なんと、最後に思わぬ大波乱！！優勝賞品の虹色の枝が、ロウ選手によって盗まれてしまいました！果たして、イレブンさんはユグノア城跡で、虹色の枝を取り返す事が出来るのでしょうか！！｣
進行役のナレーションじみたマイクパフォーマンスに、ゼクはやられたっ、と堂々と舌打ちをした。
｢あんのクソジジィー…っ！｣
ゼクの脳裏で好々爺な老人が、ふぉっふぉっふぉっ、と嘲るように笑っていた。
｢ユグノア……それって、イレブンちゃんの故郷なんじゃ……｣
｢話はイレブンと合流してからだ、行くぞ。｣
普段の語尾を伸ばす喋り方をしないぜクが、一行の歩を促す。
4人は1度顔を見合うが、ここにいても仕方ないため騎士の背を追いかけた。
───
｢というわけで、ユグノア城跡へ行こう。｣
｢あっさりしてやがんのな、イレブン。｣
｢そう見える？これでも、余計なことしてくれたな、くらいには怒ってるよ。｣
見た目にあらずか、とゼクは1人納得する。
イレブンと合流し、一行はグロッタを後にしようと入口へ向かった。
｢行くのか、あんたら。｣
｢うん。｣
｢ハンフリー、ひとつだけ餞別にくれてやる。"求めるならのまれるな"。｣
｢鬼神殿…｣
じゃーな、と振り向かずに2度手を振りゼクは先にグロッタを出た。
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作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年4月1日 23時
