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落ち着いてからゼクはゆっくりと語り出す。


「バンデルフォンって、有名なのは昼間の小麦畑なんだよ。でも、俺は夜の小麦畑の方が好きなんだよな。」


カミュは昼間の小麦畑を見た時と同じく、ゼク越しに夜の小麦畑を眺めた。
白銀の中に彩やかに赫が際立ち、どこか幻想的だった。


「オレも、夜の方が好きだな。」

「カミュ…」


ゼクが振り返り、カミュへ視線を向けた。
青もまた月光に照らされて、幻想的に赫の瞳には映った。


「なー、カミュ。」

「なんだよ、ゼク。」

「…月、綺麗だな。」


そう言うゼクは月なんてこれぽっちも見ていなくて、視線の先にはカミュがいる。
どう返そうか迷っているうちに、ゼクはクツクツと笑いだした。


「中、入ろーぜ!」

「酒で冷えたか?」

「いんや…いいもん見れたから満足だ。」


そう言ってゼクは最後の一口を、飲み干した。
だが、喉の乾きは潤えど心の乾きはむしろ拍車がかかった様な気がしてならなかった。
だが、ゼクはそれに気づかぬ振りをする。


───

部屋に戻ると寝てるだろうと思っていたゴリアテは、ゼクの帰りを待っていたようだった。


「んだよ、寝てねーのかよ。」

「悪かったわね〜、起きてて。それで、どうだったのよ。」

「教えるかよ、バーカ。」


そう口では言うゼクだったが、ゴリアテは黙って目を見つめていた。
楽しげな色を見つけたのか、ウフッ、と笑う。


「んだよ、人の目ぇ見て笑うとか…最低かよ。」

「違うわよ〜、目は口ほどに物を言うって言うじゃない。あれって本当のことなのね。」

「知らねーよ。」


そう雑に言い捨てゼクは脱衣場に消えていく。
だが、ひょっこり扉から顔を出すとゴリアテに釘を刺した。


「覗くなよ。」

「そこまで飢えてないわよ!失礼しちゃうわ!」


プリプリ、と怒りながらゴリアテはベッドに横になった。
口では思ってもいない事をゼクは言ったが、実際は感謝していた。
今になって、ゴリアテが同室なのが正直有難かったからである。
シャワーを浴びていても、月光に彩られた青が脳内でチラつく。


「…バレなきゃいい話だよな。」


深夜を回ったシャワールームで、ゼクは1人少しの背徳感をも興奮材料にして己の欲をお湯と一緒に流す。
吐息と想いが口をついて出るが、その全てをシャワーが上書きしていく。
ゼクは何度も欲を吐くのだった。
たかが2文字、されど2文字。
今はまだ、言えない。

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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年4月1日 23時

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