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カナヲは無惨の目の前で、逃げればいいのに体が言うことを聞かないようで座っている。
けれど、そんなことどうだっていい。
俺の
どこにいる。
額から流れてきた血が、視界を奪っていく。
それでも、俺は探し続ける。
不意に視界の端の端に、たんぽぽを見つけた。
「善…逸……っ!!」
赤をぶち撒けて、項垂れた善逸がそこにいた。
「No…wait,wait,wait!」
転びそうになりながらも、慌ててそっちへ駆けた。
ズザッ、と地面に両膝を付いて体に触れた。
「善逸…?ねぇ、何…寝てるの?」
胸に耳を当てなくても、聞こえてしまう自分の聴覚が今は憎くて仕方がない。
目の前にいるのに。
温かいのに。
なんだか、遠くにいってしまいそうで。
「鏡月!我妻!」
そこへ、村田がやってきた。
「村田!善逸がっ!」
ガシッ、と村田の隊服を俺は両手で掴んでいた。
それはまるで、縋り付いているようで。
「分かってるから、離せっ!」
無理やり手を剥がされて、村田は善逸の傍に片膝をついた。
手に何か持っていて、それを無遠慮に善逸へと刺した。
「
「何言ってるか分かんないけど!今、血清を打った!お前も打つんだ、鏡月。」
血清が入ってる注射針がついた薬瓶を、村田は俺の手に握らせた。
打て、と言われたが打てるわけが無い。
どこにどう打つかなんて、知らないからだ。
「あーもう!何してんだよっ!」
手にあった薬瓶が攫われて、それはまた村田の手に戻った。
それを村田は、俺の肘の内側にプスリ、と刺した。
中の血清が、俺の中へと消えていく。
「お前はまだ、軽傷みたいだな。」
それはそうだろう。
ここに今いる隊員の中で、一番動ける自信があるくらいには軽い。
「途中でいなくなるから、心配したんだぞ?」
「…君に心配されても、嬉しくない。それに、そんなにヤワじゃないよ。」
「そりゃそうだろうよっ、音柱の継子なんだからよ。」
そう言いながら村田は、立ち上がった。
「他のところ行ってくる。」
「……
「何言ってるかわかんないけど…死ぬなよ?」
「死なないよ、こんなところではね。」
村田のおかげで冷静さが戻ってきた。
改めて俺は善逸の心音に、耳を傾ける。
うん、大丈夫らしい。
ホッ、として、俺はやっと額から流れる血を拭った。
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夜月銀桜(プロフ) - 一気読みしました…2人の関係大好きです! (6時間前) (レス) @page22 id: 4ba1a8817b (このIDを非表示/違反報告)
春月是駒(プロフ) - おいもさん» ありがとうございます! (10月28日 8時) (レス) id: 6d8cf13a77 (このIDを非表示/違反報告)
おいも - おもしろい!頑張ってください (10月27日 18時) (レス) @page10 id: a2ba9c7e56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年10月19日 14時