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「俺は塵共に稽古をつけに戻るが、猪、テメェはもう次の稽古場に行け。それと紫音、お前もだ。そん時はそのバカも連れてけよ。」
「行くのはお前に勝ってからだ!祭りの神!」
「ハッ、百億万年早ぇよ。」
鼻で嗤って、そう吐き捨てる。
二人の会話を聞きながら俺は、善逸の額に浮いた汗を冷たくした手ぬぐいで拭く。
「師範。」
「あ?」
「口実、だよね?温泉掘れって。普通に走れって言っても、善逸はサボろうとするからね。俺もそれを良いよって言うし。それで温泉掘らせて基礎体力の底上げをさせたら、
アホか、って否定すると思った。
これは俺の単なる憶測だから。
なのに、師範は呆気なくそれをみとめたんだ。
その事に俺は驚いて、軽く目を見開いた。
師範って、こういう時素直に認めるような男じゃないんだけど?
「んだよ、バレてたのか。お前の言った通りだ、まぁ…猪が一緒になって手伝ってたのは意外だったがな。」
楽しげに言う師範。
そんな師範の継子で、俺は良かったなって思った。
「…俺も、お前が継子で良かったと思ってるからな。」
「へ?」
「無意識かよ。」
ぷっ、と吹き出し小さく笑う師範。
それを何?、と軽く睨めばぽすっ、と大きな手が俺の頭に乗せられた。
「……死ぬんじゃねぇぞ、紫音。」
その声は優しくて強かった。
それと同時に、どこか淋しくもあったけど。
「死なないよ、手足もがれても。」
「さすがは、俺の継子だ。」
互いに不敵に笑いあった。
「ってオイ、お前、完全にのぼせてんじゃねぇか。さっさと出ろ、ボケが!」
「うっせー……だから、俺に…………指図すんじゃね、ぇ…………」
「……うぅ…………混よ、く…………俺の……混浴がぁ…………」
呆れ声の師範、茹蛸な伊之助、善逸の譫言。
そんなカオスな状況に、俺は苦笑うしかなかった。
「あぁ、もう。面倒臭ぇな。お前らは。さっさと時透んとこに行っちまえ!」
───
あの後、なんとか伊之助を温泉から上がらせて先に次の稽古場へ行かせた。
善逸はというと、未だ起きずにいた。
「…
餌を目の前にしてお預けされた犬の気分だよ。
温泉にも。
善逸にも。
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春月是駒(プロフ) - すずめさん» ありがとうございます!書ききれるように、頑張ります! (12月9日 14時) (レス) id: 6d8cf13a77 (このIDを非表示/違反報告)
すずめ(プロフ) - めっちゃ好きです…応援してます (12月9日 13時) (レス) @page45 id: 200c70ae26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年8月19日 18時