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「でも、ちょっとは俺がいなくなって悲しいでしょぉ?」
「悲しくありません!」
「それに、善逸さんが行かないと鏡月さんが寂しくなりますよ?」
「え…そうなの? 」
「うん、寂しくて死んじゃうかもね。」
「ウサギなの!?」
そんなやり取りに、クスクス、と笑いが込み上げた。
「じゃあみんな…行ってきますっ!」
───
運行再開したらしく、駅は人で賑わっていた。
山育ちで猪に育てられた伊之助は、列車を初めて見たようでこの土地の主だ、と指を差して震えていた。
「この長さ…この威圧感…間違いねぇ!今は眠ってるようだが、油断するな!」
「いや、汽車だろ。知らねぇのかよ。」
「善逸、山育ちだから多分知らないと思うよ。」
そう言う俺たちを他所に、伊之助は一番に攻め込む、と刀を構えた。
「待つんだ伊之助!」
「あ゙?」
「この土地の守り神かもしれないだろ。それから、急に攻撃するのも良くない。」
「いや、汽車だって言ってるじゃんか。」
「はは……
思わず漏れた俺の呟きは、雑踏に飲まれただけだった。
「列車、わかる?乗り物なの、人を運ぶ。……こんの田舎もんが。」
「善逸、山に行ったらしっぺ返しされるよ?思っても言わないのも、大事だよ?」
「いや、だってさ…」
注意するとムッ、と唇を突き出す善逸の頭を苦笑いで撫でた。
それでも、善逸は不機嫌な音のままだった。
「列車?じゃあ、鏡月さんの鴉「梟ね、梟。」が言ってたのはこれか?」
炭治郎の言葉に首肯する俺の横を、静かな伊之助が通った。
二人も怪訝そうに、伊之助を見やっている。
「どした、あいつ?」
「さぁ……?」
おたけんだと思ったら、猪突猛進!、と言いながら列車へ頭突きを一発見舞っていた。
「やめろ!恥ずかしいっ!」
伊之助が列車に頭突きをしたのを見られたのか、駅員が俺たちへ走りよってくる。
「まずい……っ!」
「こいつら、刀持ってるぞ!警官だ!警官を呼べ!」
「やばぁっ!やばいやばいやばいっ!」
「逃げるよ……っ!」
善逸は炭治郎を、俺は伊之助を引っつかみ急いでその場から離れ人目のつかない所に身を隠した。
「伊之助のおかげで酷い目にあったぞ!謝れっ!」
「はぁぁ!?大体!なんで警官から逃げなきゃならねぇんだ!」
猪頭越しでも分かるほど、伊之助はご立腹だった。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時