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「便所掃除でもなんでもいいんでもらってやってくださいよ!いっそ、タダでもいいんで!こんなのは!」
煌めく夜の街を屋根の上から眺めながら、俺は善逸を京極屋へ潜入させる時の事を思い出していた。
良い顔でニッコリ、と笑い師範はあろうことか隣に立たせた善逸の頭をパシンパシン、と無遠慮に叩きながら売りつけた。
と言うよりも、金も貰わず引き渡していた。
「
「あ?」
異国語で毒づく俺の隣から、師範が声を上げて見てきた。
言った言葉の意味を教えろ、日本語話せ、と目で訴えてきている。
だが、善逸の魅力が分かった上で売りつけられるのも許せることではない。
「...善逸、相当怒ってる。」
「知るか。」
師範は屋根に腰を下ろしながら、興味なさげに返してきた。
神経を張り巡らせているからだろうか、俺の耳には雷の呼吸と共に三味線を掻き鳴らしている音が聞こえてきている。
その音が荒ぶっているから、俺は善逸が怒っているんだと判断したのだ。
「定期連絡、怠るなよ?」
「分かってる。」
「何かしら、動きがあったら教えろ。」
「分かってるって…善逸たちと違って、それなりに階級上なんだけど。」
「はっ、そういうことは柱になってから言えよ。」
それまではお前も同じだ、と師範は眉間に皺を寄せて夜の街を見つめていた。
まるで、どこかにいる嫁三人衆を探すかのように。
「生きてるよ、師範。」
「あぁ?」
「須磨さんたち、生きてるよ。」
「当然だ……じゃなきゃ、困る。」
チラリ、と盗み見た師範の横顔には変化は無かったけれど瞳が少し潤んでいるように見えた気がした。
───
「だから、あたい芸事頑張って
「目的、忘れてないよね?」
窓を挟んでそう言う俺を、善逸はおかめ顔で小首を傾げて見つめてくる。
「……雛鶴さん見つけて、情報聞くことが今回の目的だよ?」
苦笑して潜入した目的を再度教えれば、あっ、と思い出して照れ笑いを善逸は見せた。
それが最後だった。
その後、善逸は消えた。
俺の耳に届いていた善逸の音も、途絶えた。
「
師範の視線を感じながら、俺は
約束したよね?
俺を呼んでって
.
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時