71 ページ30
辿り着いた遊郭で、俺たちは師範の手配した人力車に乗って観光気分でいた。
｢いいか？お前ら、目立つことすんじゃねぇぞ。｣
そう釘を刺してくるのは、俺たちの中で一番派手な装いである師範だ。
｢あくまで様子見だからな。絶対に、車から降りるんじゃねぇぞ。｣
そんな言葉が飛び出したのと同時か否か、いち早く善逸が飛び降りた。
｢ちょっ…善逸!?｣
そして言わずもがなの伊之助も。
善逸を追いかけて、俺は車から降りた。
見失わないよう追いかけて、追いついた時には離れぬよう手を掴んだ。
｢善逸？どうかした？｣
｢うん……｣
｢おいっ！｣
背後からの声に、半身振り返ればそこにいたのは目を吊り上げた師範だった。
｢ったく、車から降りるなって言っただろうが！｣
言われたのは記憶にある為、反論出来ずに俺は申し訳なく視線を地面へと落とした。
｢ごめん……俺が、降りたからだよな……｣
｢追いかけてきたのは俺の意思だから、善逸は悪くないよ？｣
｢悪いんだよ！降りたのも、追いかけたのも！分かってんのか、コラ！動くなよ、そこからっ！｣
そう声を張る師範に、俺は耳を塞ぎ善逸は固まった。
｢これが……｣
｢昼みたいだ……｣
圧倒される二人。
伊之助も、少なからずそうなのだろうことが音を介して伝わった。
俺はといえば、実を言うと三度程来たことがある。
と言っても、師範に連れられて。
そういうことも経験しておけって、要らぬお節介で、だ。
｢これが、吉原遊郭。男と女の見栄と欲、愛憎渦巻く夜の街。……派手だろ。｣
｢なんだこりゃぁぁああっ！人だらけじゃねぇかぁぁあっ！｣
野生児・伊之助、目を回したまま猪突猛進っと叫びいつもの如くどこかへ突っ込んで行った。
｢あっ！｣
落ち着け馬鹿！、と言いながら追いかけて行く師範の背中を見送っていれば、善逸に手を引かれて俺は自ずとそこから離れた。
フラフラフラフラ、と歩くのは見世の下。
｢そこの黄色い子と、紫紺の方？｣
声のする方へ視線を向ければ、客寄せをする遊女たち。
花魁じゃなくても、それなりに美人だ。
善逸は頬を染め、俺は外面で笑んでゆるゆる、と手を振る。
｢寄っといでよぉ。｣
｢お菓子、あるよぉ？｣
｢……綺麗なお姉さんたち、だね。｣
｢こらっ！俺がいるのに、余所見しないでよっ！｣
善逸は、意外と独占欲強いらしい。
平手くらって、引っ張られるままに足を動かした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春月是駒 | 作成日時：2023年6月11日 22時
