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しのぶに怒られ、善逸に泣かれた俺だったが無限列車での傷や怪我は比較的軽くて早々に蝶屋敷を追い出された。
その為、俺は久しぶりに宇髄家の敷居を跨いだ。


I'm home.(ただいま。)


いつもなら嫁三人衆のうち一人でも、出迎えにくるが一向に来なかった。
しっかりものの雛鶴も。
同い年のまきをも。
ドジっ子須磨も。
誰も。


「え...いないの?」

「なんだ、お前か。」

「師範、雛鶴さんたちは?」

「……遊郭。」


What?(はい?)
知らない単語に、俺は靴を脱ぎながら師範を見上げた。


「遊郭っつーのは、男が女を金で買って愛を満たして欲を吐き出す場所だな。」

「……I know...(なるほど…)けど、なんでまた?」

「鬼が潜んでるっつー情報が入ってな、何度か俺も客として出向いてはいるんだが…一向に掴めん。なら、もっと深いところだろうってことで三人を送り込んだんだよ。」

「大事にしてるくせに、よくそんなところに送り込めるよね。」


そんな会話をしながら俺は、宇髄家で宛てがわれてる自室へと向かう。
俺が師範の立場で、善逸をそういう場所に送り出さなければならない状況でそれが出来るかを考えるが、直ぐに脳はNOだと答えを出す。


「……任務だ、それくらいあいつらも割り切ってる。元々くノ一なんだ、そういうことも仕込まれてんだよ。」

「割り切ってても、嫌でしょ。……何かあったら言って。俺も出るから。」


部屋に入る前に振り向いてそう言えば、師範の眉間には何個か渓谷が作られていた。
任務だから、と割り切ってる割にも、その顔は嫌で嫌で仕方ない、と言ってるも同然だった。


「当たり前だろっ……政略結婚だったとはいえ、連れ添ってもう十年だからな。……階級下の継子に言われても、なんだかなーってところだけどな。定期連絡が途切れたら、お前にも頼むわ。」


そう言って師範は、俺の横を通り過ぎる。
クワッ、と大きな口を開けて欠伸をし、派手な化粧を施した左目に涙を滲ませて奥にある自室へ向かっていった。
その背中を見送ってから、俺は自室へと入った。


「…やることやりつつ、待つしかない…よね。」


その言葉と一緒にため息をついて、腰を下ろした。
額当てを外して、刀を下ろす。
商売道具である愛刀を、時間がある今のうちに、と俺は手入れをする。
その数刻後に、任務が入るとは今の俺は知る由もなかった。

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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時

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