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「気をつけて、お帰りください。」


互いの用事も済んだ俺たちは、橙色に染まる景色の中千寿郎に見送られていた。


「いえ、こちらこそありがとうございました。」

「千くん、無理しないでね?杏寿郎も、それは望んでないから。」

「はい。」


素直に返事をした千寿郎の頭を、俺は思わずくしゃくしゃ、と撫でた。
わっ、と驚きながら首を竦めた千寿郎だったが、どこか嬉しそうに笑みを零していた。


「あ、そうだ。」


俺が撫でる手を止め離せば、千寿郎は徐に懐から何かを取り出した。


「これを…受け取ってください。」


炭治郎へと差し出されたソレ(・・)は、俺が煉獄の日輪刀から外した鍔だった。


「いっ、いただけませんっ!こんな大切なもの…俺はっ!」


それを拒絶するように、炭治郎は千寿郎の手ごと押し返した。


「持っていてほしいんです、きっと…貴方を守ってくれます。」

「…杏寿郎は、君に持っていてほしいと言うよ。最前線で命を掛ける、炭治郎()に。ね?千くん。」

「はい、兄ならそう仰ると思います。だから…」


そう言って千寿郎は、炭治郎の手の中にそっとそれを握らせた。


「…ありがとう。」

「千くん、see you.(またね。)


小さく手を振ってそう言えば、俺が何を言ったか分かりはしないものの、また、と手を振り返してくれた。


───

蝶屋敷まであと少しというところで、炭治郎の足取りが遅くなった。


「…Are you alright?(大丈夫?)蝶屋敷、目の前だけど。」

「大丈夫、です。」


全くもって大丈夫な見た目をしていないのに、強がりなのかそう炭治郎は答えた。
背中の箱の中にいる、妹・禰豆子にもそう言っていた。
まぁ、本人がそう言うのだから手を貸す程でもないのだろう、と結論付けて俺は前へ向き直り足を踏み出す。


「あ…」


同じく前に向き直ったらしい炭治郎から、音が零れ落ちた。
何に対しての、あ、なのか訝しんでいると、先に中へ入ってて構いませんから、と怪我人に言われた。


「俺の…担当の刀鍛冶の人が……」

「………あの、黒いの?」

「はい……」

「ん、分かった。」


それなら確かに俺は部外者だな、と思い至り正門からではなく塀に飛び乗った。


「え…?」

「関わりたくないから。」


それだけ言って、俺はそのままストン、と塀の内側へ飛び降りた。
それをしのぶに目撃情報されて、怒られたのは記憶に新しい。

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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時

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