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「父上!やめてください!その人の顔を見てください!具合が悪いんですよ!?」


駆け寄り制止を促す千寿郎だが、そんな息子に槇寿郎はうるさい黙れ、と払い除けた。
咄嗟に俺が千寿郎を受け止めたから、地面に倒れ込むことはなかった。


「いい加減にしろ!このひとでなし!」


炭治郎は頭にきたらしく、押さえつけられた体を反転させて蹴り上げた。
それをいとも容易く、槇寿郎は受け止めて距離をとった。


「さっきから一体、なんなんだあんたは…命を落とした我が子を侮辱してっ、殴って、何がしたいんだ!」

「お前……俺たちのことを馬鹿にしているだろっ!」


クワッ、と見開いてそう言う槇寿郎。


「どうしてそうなるんだっ、何を言っているのか分からない!言いがかりだ!」

「お前が日の呼吸の使い手だからだ…っ!その耳飾りを、俺は知ってる!」


耳飾り(イヤリング)
その単語に、俺は炭治郎の耳元を注視した。
確かに、耳に揺れるタイプのイヤリングがある。
だけど、それがどうしたというのか。


「書いてあった!…始まりの呼吸…っ、一番初めに生まれた呼吸。最強の御業…!そして全ての呼吸は、日の呼吸の派生…っ!全ての呼吸は、日の呼吸の後追いにすぎない!日の呼吸の猿真似をし、劣化した呼吸だ!火も!水も!風も!全てがっ!」


全てを否定する槇寿郎だが、耳の良い俺には聞こえていた。
己を否定してくれるな、と。
炎の呼吸は劣化した呼吸ではない、と。
否定を口にして攻撃的になっているが、心は助けを求めていた。
そんな音が、俺には聞こえていた。


「日の呼吸の使い手だからといって…調子に乗るなよっ!小僧っ!」

「乗れるわけ…ないだろうがっ!」


地面に膝をついていた炭治郎が、涙を目に浮かべそう叫びながら立ち上がった。


「今、俺がどれだけ自分の弱さに、打ちのめされてると思ってんだ!このっ…クソジジイっ!」

「ワーォ…」

「危ないっ!父はっ!」

「煉獄さんの悪口…っ!」


槇寿郎に殴りかかった炭治郎の背に、千寿郎が父は元柱だ、と青ざめた表情で言った。
だが、炭治郎の拳はいとも簡単に槇寿郎の左手によって受け流され逆に袖を捕まれ殴られた。


「やめてくださいっ!父上っ!」


その後も幾度となく振り下ろされる槇寿郎の拳を、炭治郎は右腕で防いでいた。
だが、一瞬の隙を突いて炭治郎は自慢の頭を槇寿郎の鼻っ面へと見舞った。


「あ…」


槇寿郎の声と、千寿郎の息を飲む音が重なった。

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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時

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