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「煉獄杏寿郎さんの訃報は、お聞きでしょうか?」
近づいて頭を下げてから、炭治郎はそう聞いた。
続けて炭治郎は、煉獄からの父親と千寿郎への最期の言葉を預かったことを伝えた。
「兄から…?兄のことは既に承知しておりますが…あの…っ。」
言葉を切って言い淀む千寿郎が、助けを求めるように俺を見てきた。
「鏡月さん…この方、大丈夫なんですか…!?顔が真っ青ですけど…っ。」
「ん?…言っても聞かないから放「やめろぉ!」
安静にしていなければならないのに、炭治郎はそれをしていない。
言ったところで聞かないから放っておけば、と続くはずの俺の言葉は、怒声でかき消された。
声のした方へ視線を向ければ、煉獄家特有の髪色を持った男が酒瓶を片手に立っていた。
「どうせくだらんことを言い残しているんだろぉ…!大した才能もないのに、剣士になどなるからだ。だから死ぬんだ…!くだらないっ!」
実の息子を愚かだ、と言い捨てる男が、煉獄の父親・槇寿郎だと理解した。
「人間の能力は、生まれた時から決まってる。才能のあるものはごく一部…あとは有象無象っ!なんの価値もない塵芥だ!」
そう吐き捨て、槇寿郎は酒瓶を煽る。
「杏寿郎もそうだ。大した才能はなかった、死ぬに決まってるだろ…っ。」
慕う兄を実の父親に貶され、千寿郎は竹箒を握りしめて俯く。
煉獄に似た瞳が、ゆらゆら、と泣くのを堪える様に揺れている。
ほんの少しでも慰めになれば、と俺は、千寿郎の頭を撫でる。
「千寿郎っ!葬式は終わったんだ…いつまでもしみったれた顔をするなっ!」
千寿郎の瞳から、遂に涙が滲み出た。
「ちょっと!あまりにも酷い言い方だ…!そんな風に言うのは、やめてください!」
「
見逃せずに思わず俺は、炭治郎の後に続いてチクリ、と槇寿郎に言い放った。
「なんだお前は?…それに、お前。宇髄のとこの継子だったな。……出ていけ、家の敷居を跨ぐな!」
「俺は、鬼殺隊のっ!」
"鬼殺隊"。
その単語が出た瞬間、槇寿郎の目は血ばしり酒瓶が地面に落ちて割れた。
「お前……そうか、お前……!日の呼吸の使い手だなぁっ!?そうだろ!」
人差し指で炭治郎を差して、そう震えながら言う槇寿郎。
だがなんの事か分からない炭治郎は、槇寿郎に聞き返した。
答えることも無く、槇寿郎は素早く炭治郎に近づいて左手首を掴んだと思うと、地面へと押さえ付けた。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時