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炭治郎と伊之助が鬼の頸を斬ったらしく、列車は耳障りな断末魔を上げ最後の悪あがきの様に触手が禰豆子へ、善逸へ、乗客へと伸びる。
「
脱線したのか車両が傾く中、俺は触手の全てを弐ノ型の六連撃で斬り刻んだ。
最後の着地をしようとつま先を下ろした時、乗客の女の子を庇って投げ出されそうになっている善逸を俺は視界に捉えた。
「善逸…っ!」
鬼殺隊の隊士なら、乗客を優先するべきなのだろうけれど。
頭では分かっているのに、心が、体が勝手に動いていた。
善逸諸共、乗客の女の子も抱き込んで飛ばされる方に背を向けた。
「かはっ……!」
地面に投げ出され、背中を強打した俺は肺にあった空気が一気に外へと追い出された。
ズザァァァァァァッ、と地面を勢いで滑った。
それでも、隊服は破けることなく背中に擦り傷を作ることは一切なかった。
咄嗟に動いたからか、両手に持っていた紫紺の日輪刀は今はどこかへいって無い。
「
腕の中の善逸からは不穏な音は聞こえないからか、俺は手元に無い日輪刀の事を思っていた。
俺の担当鍛治である鐡一鉄から刀を受け取った日に言われた言葉が、脳内で
「いいか、小僧!折ってみろ、失くしてみろ。その時は二度と俺は小僧に刀など打たぬからなっ!!!」
「
「鬼殺隊員が己の日輪刀を手放すとは…よもやよもやだ。」
そこへ俺の刀を手に持った煉獄が、やってきた。
あっ、と思った時には、二対の刀は運び手によって地面に突き刺された。
「杏寿郎…
「まったく…他に鬼がやってきていたらどうしていたんだ。君の刀は、替えが効かないだろ。」
「
「噂に聞いてはいたが…守られるような隊士でもなかろう。」
君は変わったな、と煉獄は苦笑いを浮かべた。
知り合った頃の俺には、守りたいものは無かったから。
そんな俺に、煉獄はよく怒っていたな、と思い出す。
「君がいたから変われたんだよ…生きろってうるさいから。」
「うるさいとはなんだ、うるさいとは。…友に先逝かれるのは何も嬉しくないからな。」
ニヒルに笑う煉獄に、俺もニヒルな笑みを返した。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月11日 22時