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俺が初任務を受けてから、二年。
その間、花から花へと飛び回る蜜蜂の如く任務から任務へと飛び回っていた。
毒を受けたり、個人的に対処出来ない怪我の場合、蝶屋敷なる場所で療養して回復訓練を受けたりしていた。
何時かの任務で受けた右頬の傷と、左目を縦に走る傷の痕が残ってしまった。
「残ってしまいましたね、傷。」
治療者として責任からくるのか、蝶屋敷の主である胡蝶しのぶ少し悔しげにそう言った。
「いいよ、残っても。俺、男だし。」
「良くないですよ?せっかくの良い男が、台無しです。」
「師範には、男みが増したって言われたよ。」
そう笑いながら言うと、しのぶは眉尻を下げて笑っていた。
「怪我も完治しましたし、機能回復も十分なようなので任務復帰していいですよ?」
「ありがと。」
「ただし、あまり無茶はしないでください。」
してるつもりは毛頭ないんだけど。
ムッ、とするが、可愛くないからやめてください、とニッコリ笑顔のしのぶに言われた。
「紫音、任務ヨ。」
「紫衣奈…内容は?」
「今回ハ合同任務、現地ニテ集合ヨ。階級、癸ノ隊士三人ト合流セヨ。」
「下級隊士じゃん。」
愚痴を零したところで、任務が終わるわけじゃない。
一息深呼吸してから、立ち上がる。
「行ってらっしゃい、紫音くん。」
「うん、行ってくるよしのぶ。」
いつもの様にハグをした瞬間、しのぶの小さな拳が俺の腹筋を殴った。
「近いので、離れてくださいね?」
「ただの挨拶だって……」
鳩尾では無い当たり、治療者と言うべきか。
さすさす、とお腹を撫でて診察室を後にした。
───
「俺は竈門炭治郎って言います!階級は癸です!」
「俺は、鏡月 紫音。階級は戊。」
道すがら、炭治郎という後輩隊士と合流した。
鎹鴉と日輪刀、そして隊服。
この三つで、今回の任務を共にする隊士であることに気付いた。
「先輩隊士ですね!俺、鬼殺隊に入ってから初めて先輩隊士に会いましたよ。」
「俺も、後輩に会うのは初めてだよ。」
他愛もない会話をしながら、あぜ道を歩く。
炭治郎からは、泣きたくなる様な優しい音がする。
その背中からは、鬼特有の音。
「ねぇ、炭治郎。その背中の箱、何入ってるの?」
「あ…これには俺の大事なものが入ってます。」
一瞬の間。
物か者かは知らないけど、気にしない事にする。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時